長年に渡り麻薬・薬物犯罪を厳しく取締まってきたタイ政府が、国内における大麻の商業栽培を合法化しました。今後は栄養補助食品、スキンケア製品、エナジードリンクや緩和ケアの医薬品など様々な商品が生まれ、タイでもいよいよグリーンラッシュ(大麻特需)がスタートすると注目を集めています。
違法植物から最先端の注目株に
タイでは2021年1月29日から、個人や法人、地域企業などが、大麻と麻に含まれる合法的な成分を商業目的で使用できることになりました。
登録申請はタイ食品医薬品局(FDA)や州の公衆衛生事務所で行われ、今後は朝食用シリアル、パンや焼き菓子、飲料、スナック、バター、栄養補助食品など様々な商品に、ヘンプオイルや麻から抽出した薬理成分CBD(カンナビジオール)を利用できるようなるとのこと。タイでもいよいよグリーンラッシュ(大麻特需)がスタートするものと注目を集めています。
すでに緑茶ペットボトル飲料メーカーのイチタンや飲料会社のサップルPlc、歯磨き粉などを生産するサイアムヘルスグループ、エナジードリンク・メーカーのOsotspa Co、カラバオグループなどが商品開発・販売に乗り出しています。
ヘンプ由来の非精神活性化合物であるCBD(カンナビジオール)を使用した製品の世界市場価値は、2019年には最大175億ドルといわれ、2027年には650億ドル市場に成長すると予測されています。欧米などでも大麻の合法化が進んでおり、新しいウェルネス・マーケットとして様々な会社が参入している分野です。
グリーンラッシュの盛んな国アメリカでは。50州のうち15州が嗜好用を含む大麻を合法化しており、35州において制限は異なるものの医療用大麻を認めています。この動きを受けて巨額の資金が市場に流入しましたが、タイも同様に麻関連事業に関連する株価が上昇し、間違いなくタイ経済の新たな原動力になるといわれています。
麻の利点
産業用に栽培されるヘンプ(麻)は古代から繊維や食べ物、薬として人類に親しまれてきました。日本も麻の歴史は古く、神道文化とも深い関わりがあります。また耐虫性があり植え付けが簡単、土壌改善もしてくれる麻は、今回の合法化により農家の収入増を期待されているのです。
過去に違法物として扱われた時代があるとはいえ、麻科のヘンプ自体は植物として健康で安全な代替製品に向いていることが分かっています。
昔からのようにヘンプ種子=ヘンプシードを食べたりするほかにも、粉砕して植物性プロテイン・パウダーとして利用したり、抽出されたオイルを食用や産業用に利用したり、繊維を利用して衣類や建材に利用することも可能です。
また麻由来の天然成分であるCBD(カンナビジオール)は人体に備わって居る身体調節機能ECS(エンド・カンナビノイド・システム)に働きかけ、免疫調整や痛みの緩和、不眠や不安の改善、炎症の緩和や神経保護など様々な働きをサポートしてくれるといわれ、健康サプリ成分としての需要が高まっています。このCBDは、向精神作用をもたらすTHC(テトラヒドロカンナビノール)とは別の成分で、違法性もなく日本においても入手することができます。
CBDはオイルや電子タバコで摂取する他にも、現在ではコーヒーやソフトドリンク、チョコレートやアイスクリームなどのお菓子、化粧品やスポーツ用の筋肉炎症を軽減するクリームなどに配合されるようになりました。
また歯磨き粉やマウスウォッシュなど、より一般的なトイレタリー製品への活用も増えています。
タイのグリーンラッシュ参入企業
地元バンコクポスト紙では。麻や麻成分を利用した商品開発を進行中の企業にインタビューを行っています。
カラバオグループの最高経営責任者であるサティエンセタシット氏は「タイ政府が食品および飲料製品でのヘンプオイルの使用を許可した場合、カラバオダンは製品を市場に投入する最初のブランドになります」とコメントしています。
麻に含まれる成分CBDはリラクゼーションに役立つとされ、癌細胞を抑制する性質もあるため代替製品やCBDを使ったエナジードリンクやソフトドリンクの製品開発研究が現在進行中です。
冷凍食品の生産業者グロコン(Global Consumer PCL )は、2021年にプラントベース食品6種を発表予定であり、そのうちの2つは大麻成分を配合したものになるとコメントしています。同社ではサムットソンクラームにある工場に新しい生産ラインを設置し、麻ベースの製品を生産するために約1億バーツを投資する予定です。
またタイの人気ベーカリー・チェーン、オーボンパン(Au Bon Pain)でも、麻を材料に使ったメニューを開発中とのこと。
「ママ」ブランドのインスタントラーメンで知られるタイ・プレジデント・フーズでも麻の利点を研究し、商品に取り入れる可能性を検討しているとのことです。
また食品業界だけでなく、コスメ業界も麻に注目しています。
タイ産ハーブを生かしたコスメなどで知られるRSグループは、スキンケア、飲料、サプリメントなどの分野で麻製品を導入の予定で、チャンネル8とそのトップデジタルTVの同盟国、オンラインチャンネル、メッセージアプリなどを介して麻製品の販売を計画しています。
ヘンプ商業化は世界の潮流
国の麻薬リストに含まれていた雑草である大麻が注目作物としてビジネス界を席巻している様子は驚くばかりです。違法に生産した麻を闇マーケットで流通させるより、合法にし管理した上で税収を増やし研究や教育充実させるというのは世界的な流れのようですが、すでにヘンプ事業セミナーや大学での研究も行われているこの地から、世界に向けたタイ発ヘンプ・ブランドが登場する日も遠くないのかもしれません。
<参考資料>
https://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=7bf4ec40-c875-482d-844d-1ffa270e1b7e
https://www.bangkokpost.com/business/2076111/hemp-goes-from-zero-to-economic-hero