カンナビノイド(Cannabinoid)とは、世界各地で見られるカンナビス(Cannabis=大麻草)に含有される化学物質の総称です。このカンナビノイドは人間の脳や全身に存在しているCB1やCB2などの受容体にくっついて受容体を活発にすることで、体の痛みを抑えたり、不安を和らげるなどある種の薬物に似たような効果を導けると言われています。
これらの作用に注目してカンナビノイドを使用することで得られる効果が期待できる疾患がいくつか挙げられており、その有用性についても広く知られるようになっています。
今回の記事では、まだあまり知られていないカンナビノイドの適用疾患やその有用性について紹介します。
カンナビノイドの適用疾患
カンナビノイドの適用疾患は約100疾患あるといわれており、大麻草に含まれるカンナビノイドのうち特にテトラヒドロカンナビノール(THC)やカンナビジオール(CBD)が医療大麻の成分として注目されています。
大麻先進国であるアメリカでは州によって医療大麻を合法化しており、カンナビノイド見られる以下のような作用を期待して利用されている州が多いです。
- 痛みを抑える作用
- 鎮静させる作用
- 睡眠をうながす作用
- 食欲を増進させる作用
- がん作用
- 嘔吐を抑制させる作用
このようにカンナビノイドを医療で用いると様々な作用が期待できるため、カンナビノイドが適用となる疾患も多いという結果になります。
適用疾患はエビデンスにより様々
カンナビノイドの適用疾患はあっても、それらが一様に同様の効果が期待できるわけではありません。多くの研究などを経て得られたエビデンスの信頼性レベルによって、カンナビノイドの効果が期待できる疾患は分けられています。米国科学工学医学アカデミー(2017年)によると大麻またはカンナビノイドの治療効果について主に以下のような報告がありました。
決定的また実質的なエビデンスがある
大麻またはカンナビノイドが有効であるという決定的または実質的エビデンスがある:
- 成人における慢性疼痛の治療(大麻)
- 化学療法における吐き気および嘔吐の治療における制吐剤として(経口カンナビノイド)
- 患者が報告した多発性硬化症の痙攣症状の改善(経口カンナビノイド)
中級程度のエビデンスがある
大麻またはカンナビノイドがいかに有効であるという中等度のエビデンスがある:
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群、線維筋痛、慢性疼痛、及び多発性硬化症に関連する睡眠障害 を有する個体における短期間の睡眠アウトカムの改善(カンナビノイド、主にナビキシモ ルス)
限定的エビデンスがある
大麻やカンナビノイドが以下に有効であるという限定的エビデンスがある:
- HIV/エイズに伴う食欲の増進と体重減少の抑制(大麻および経口カンナビノイド)
- 臨床医が測定した多発性硬化症の痙攣症状の改善(経口カンナビノイド)
- トゥーレット症候群の症状改善(THCカプセル)
- パブリック・スピーチ・テストによって評価される、社会不安障害による不安症状の改善 (カンナビジオール)
- 心的外傷後ストレス障害の症状の改善(ナビロン:中等度の質の一回の試験)
(出典)米国科学工学医学アカデミー「大麻とカンナビノイドの健康への影響 エビデンス(科学的根拠)の現状と研究勧告」付録 レポート結論
https://www.nap.edu/read/24625/chapter/1
http://cannabis.kenkyuukai.jp/images/sys%5Cinformation%5C20170514105129-6C5A8426FC596C15219150D7C2D8D06CFCE3F7F0A28E011E82D20EB9263B97DF.pdf
これらのエビデンスレベル別の適用疾患を見てみると、慢性的に感じる痛みを和らげたり、がんの化学療法による嘔吐を抑えたり、神経系の疾患である多発性硬化症の痙攣症状を和らげるなどに対して、カンナビノイドの効果が実施的なエビデンスがあるものとして実証されていることが分かります。
上記に挙げた疾患以外にも、てんかんなどにもカンナビノイド製剤を治療に用いることで改善の効果が導けるといわれており、これまで完全に治すことが難しいと言われてきた疾患にも適用が期待されるのが、カンナビノイドを使った治療の特徴といわれています。
カンナビノイドの有用性
それではカンナビノイドはどのような有用性が期待できるのでしょうか。
ひとつにカンナビノイドを治療で用いることで、いわゆる体に有害となるような副作用が少ないことが挙げられます。とくにカンナビノイドを使っても死に至るような毒性はないとされていることから、より安心して治療に用いることができるというわけです。
さらにこれまでコントロールが難しかった慢性的に感じる体の痛みや、慢性疾患の対処に関してもカンナビノイドを使うことで痛みや治療がコントロールしやすくなり、それができることで患者自身が自分で痛みなどをマネジメントできるという自己効力感につながることも期待されています。
副作用も少なく、痛みなどがコントロールできるというカンナビノイドの有用性が、患者の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)を高める大きなきっかけになるというわけです。
さらに患者自身の生活の質が上がることで、患者を支援する家族の不安も軽減することにもつながります。
まとめ
現在主に海外では、カンナビノイドが医療大麻やカンナビノイド製剤として特定の疾患に対して適用となっていますが、今後研究がさらに進めばカンナビノイドの適用疾患も増えて感アビノイドの有用性がより広く認知されていくことが予測できます。
ただしこれらは海外の場合であって、日本では大麻草の栽培や使用は大麻取締法で厳しく規制されており、医療で使用する目的であっても輸入や利用、所持することはできません。
今後日本においてどのように医療大麻に関する議論が進んでいくのか未知数ですが、今からでも知識として医療大麻の効用や適用疾患、カンナビノイドの有用性などを理解しておくことが大切だといえるでしょう。
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引用元
(参考文献・サイト)
Dr.ミクリヤ 医療カナビス適応疾患リスト
http://asayake.jp/cannabis-studyhouse/20_medical_cannabis/04_dr_tod_list/dr_tod_list.html
NPO法人 医療大麻を考える会「医療大麻適応疾患リスト」
http://iryotaima.net/?page_id=1628
米国科学・工学・医学アカデミー(米国アカデミー)「大麻とカンナビノイドの健康への影響 エビデンス(科学的根拠)の現状と研究勧告」
https://www.nap.edu/read/24625/chapter/1
http://cannabis.kenkyuukai.jp/images/sys%5Cinformation%5C20170514105129-6C5A8426FC596C15219150D7C2D8D06CFCE3F7F0A28E011E82D20EB9263B97DF.pdf
公益財団法人神戸医療産業都市推進機構医療イノベーション推進センター「大麻(カンナビス)とカンナビノイド(PDQ)」
https://cancerinfo.tri-kobe.org/summary/detail_view?pdqID=CDR0000688139&lang=ja Joan L. Kramer MD,Medical marijuana for cancer,A Cancer Journal for Clinicians,Volume 65,Issue 2
https://acsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.3322/caac.21260?systemMessage=Wiley+Online+Library+will+be+unavailable+on+Saturday+27th+February+from+09%3A00-14%3A00+GMT+%2F+04%3A00-09%3A00+EST+%2F+17%3A00-22%3A00+SGT+for+essential+maintenance.++Apologies+for+the+inconvenience.
(要約文)
http://www.f-gtc.or.jp/medical-cannabis/medical-marijuana-for-cancer.html
公益財団法人難病医学研究財団 難病情報センター「多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)」
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3806