「脳内マリファナ」という言葉を聞いたことはありますか?
マリファナという言葉だけだと、違法薬物を想像する人もいるかもしれません。しかし脳内マリファナとは「脳内マリファナ類似物質」とも呼ばれ、私たち人間の体内で作り出される物質である内因性カンナビノイドであり、植物性カンナビノイドや危険ドラッグなどの合成カンナビノイドとは類似していますが異なるものです。
今回は人間の体内で作り出される、マリファナに似たような物質でもある脳内マリファナについて説明します。
脳内マリファナ=内因性(エンド)カンナビノイドのこと
脳内マリファナとは、主に人間の脳内で作られる内因性カンナビノイドのことを指します。カンナビノイドは大麻草に含有されている生理活性成分の総称で、そのカンナビノイドと同じ作用を持つ物質が体内でも生成されることから「内因性」カンナビノイドと言われています。
ちなみにCBDなどのオイルに含まれているのは大麻草の生理活性成分は「植物性カンナビノイド」といい、研究や治療で合成的に作られたカンナビノイドは「合成カンナビノイド」といいます。
脳内マリファナには主要な2つの物質がある
脳内マリファナには、今のところ生理的に機能していると言われている2つの主要な物質があります。
- アナンダミド(AEA)(1992年にブタの脳から抽出・同定)
- 2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)(1995年にイヌの腸、ラットの脳から同定)
これら2つの物質はアラキドン酸を含んでいる脂質性の物質で、2-AGの方がアナンダミドよりも多く脳に存在していると言われています。他にも10種類くらい脳内マリファナが体内に存在していると言われているものの、実際に生理的な機能を果たしているかどうかは分かっていません。
脳内マリファナはカンナビノイド受容体に結合して作用する
脳内マリファナであるアナンダミドや2-AGは、体内でカンナビノイド受容体タイプ1(CB1)やカンナビノイド受容体タイプ2(CB2)と呼ばれるタンパク質の受容体に結合して生体に作用を及ぼします。
CB1は中枢神経系、特に脳内に多くあり、一方でCB2は免疫系に多く存在しています。
主に脳で作られる脳内マリファナが体内の細胞にあるカンナビノイド受容体に結びつくことで様々な生体機能をコントロールするのです。
脳内マリファナの生理的作用として主に以下の作用が見られます。
- 記憶
- 認知
- 運動抑制
- 鎮痛
- 食欲調節
- 報酬系の制御など
このように脳内マリファナはカンナビノイド受容体と結合して生体の機能を調整する重要な役割があります。
カンナビノイド受容体と結合してエンドカンナビノイドシステムを作る
内因性カンナビノイドと言われる脳内マリファナが、カンナビノイド受容体と結合して生体機能を調整するシステムを「エンドカンナビノイドシステム」といいます。
エンドカンナビノイドシステムとは、私たち人間の体内にある細胞それぞれのコミュニケーションを支えて、神経系や免疫系などのバランスをコントロールする機能のことで、生体のホメオスタシス(恒常性)を維持する役割を果たします。
脳内マリファナ(アナンダミドや2-AGなどの内因性カンナビノイド)とカンナビノイド受容体(CB1やCB2)から構成されたエンドカンナビノイドシステムが全身に分布しており、人間が本来備わる記憶や認知、運動、痛み、炎症、感情などの調整機能を果たしているのです。
脳内マリファナがてんかんを抑える?
エンドカンナビノシステムの一つの構成要素である脳内マリファナが、てんかんを抑える可能性があることも新たな研究で示唆されています。
Yuki Sugaya,et al;Crucial Roles of the Endocannabinoid 2-Arachidonoylglycerol in the Suppression of Epileptic Seizures,Cell Report.2016 Aug 2;16(5):1405-1415
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27452464/
この研究では脳内マリファナである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)が様々な仕組みを経て神経細胞へ伝わる興奮を軽減させて、けいれんの発作やてんかんが起きるのを抑えるとしています。
この研究結果によって明らかにされた2-AGの作用は、今後ヒトにおける抗てんかん薬の開発に役立つものとして期待されています。
まとめ
脳内マリファナとは脳内マリファナ様物質ともいい、体内で生成される内因性カンナビノイドのことを指します。主に脳内で生成されるアナンダミドや2-AGがあり、CB1やCB2といったカンナビノイド受容体と結合することで神経伝達を促し、記憶や認知、運動、免疫などの生体機能を調整する役割を果たします。
脳内マリファナとカンナビノイド受容体が作るこれらの生体内システムをエンドカンナビノイドシステムといい、私たち人間の生体機能を維持する上では欠かせないシステムとなっています。脳内マリファナは研究においててんかん発作を抑える結果も示唆され、今後さらに脳内マリファナの研究や開発が期待されている物質といえるでしょう。
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参考URL
橋本谷祐輝,脳内マリファナの作り方
http://physiology.jp/wp-content/uploads/2014/10/076040145.pdf
橋本谷祐輝,狩野方伸;エンドカンナノイド,脳科学辞典(2013)
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/エンドカンナビノイド
日本臨床カンナビノイド学会 基礎情報 作用機序
http://cannabis.kenkyuukai.jp/special/?id=19136
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 プレスリリース「脳内マリファナがてんかんを抑えるしくみを解明」
https://www.amed.go.jp/news/release_20160722.html