はじめに
近年話題になっているCBD(カンナビジオール)。健康によい、心身のパフォーマンス向上に効果的らしい…といった話をよく聞きますが、実際にはどんな効果が分かっているのでしょうか。
本記事では、CBDの効能、マリファナとの違い、副作用などCBDについて知っておきたい基礎知識についてまとめました。
「カンナビノイド研究の父」ミシューラム博士の功績
麻類に含まれる生理活性物質カンナビノイドに関する研究は、1960年代にイスラエル人の有機化学者ラファエル・ミシューラム(Dr Raphael Mechoulam)博士が、カンナビスに含まれるカンナビノイドの分離に成功したことから始まります。ミシューラム博士はその後も研究を重ね、人体に備わる身体調節機能「エンド・カンナビノイド・システム(ECS)」についても発見しました。
エンド・カンナビノイド・システムは食欲・痛み・免疫機能、感情、認知、発達などさまざまな機能を持ち、細胞同士のネットワークやコミュニケーションを支えています。そして私たちの体内で作られているカンナビノイド=内因性カンナビノイドはこのECSを介して特定の細胞に指令を出しています。
補足※博士の大麻研究に関するドキュメンタリー「The Scientist」(日本語字幕付き)がYouTubeで公開されています。興味のある方はぜひ視聴してみてください。
<リンク>
体内でのCBDの働き
人間の体内にはCB1受容体・CB2受容体という2つのカンナビノイド受容体があり、同じく体内で内因性カンナビノイドがこの受容体と結合することによって、さまざまな作用を引き起こします。
健康そのもので体内で作られる内因性カンナビノイドがじゅうぶん生産されていれば、体内の恒常性はきちんと維持され何も問題はないのですが、現代生活では生活スタイルや外的ストレスなどによって生産量が減少することで、心身のバランスが崩れ、調子が悪くなってしまうことがあります。このカンナビノイドを体外から補うことができるのが植物由来のカンナビノイド、つまりCBDになります。
麻類に含まれるカンナビノイドには発見されただけでも100種類以上がありますが、そのうちの一つCBDが体内の受容体にたどり着くと、人間が外部から受け取るストレス等のダメージを和らげるために働いてくれるのです。
マリファナとヘンプの違いは?
産業用の麻であるヘンプと、麻薬として禁止されているマリファナとの違いは何でしょうか。
両者とも同じ麻科の植物なのですが、大きな違いは向精神作用のあるカンナビノイドの一THC(テトラヒドロカンナビノール)の含有量。麻薬として扱われるTHCの含有量の少ないのがヘンプです。サプリメントなどに用いられるカンナビノイドの一種CBDは、THCのように精神的および感情的な影響をもたらしませんが、炎症を軽減したり、痛み受容体をブロックすることで、痛みを軽減するのに役立ってくれます。
日本ではTHCが排除されており、麻の茎や種子から摂取したCBDは合法であり、安心して使用することができます。
とはいえ一般には麻薬成分として認識されているTHCに医学・治療的な効果が全くない訳ではありません。実際に、CBDとTHCを組み合わせた医薬品が認可を受けている国もあり、重度のてんかんや難病の治療薬として使われているほか、現在も人間の細胞にどのような影響を及ぼすかについてさらなる研究が続けられているのです。
CBDに期待できる効能
ではCBDには具体的にはどのような働きをしてくれるのでしょうか。
CBDは体内のエンド・カンナビノイド・システムを介して心身のバランスを整えたり炎症や痛みを軽減してくれるため、具体的には以下のような項目があげられます。
- ストレスを緩和、不安を軽減
- 不眠症の治療
- 痛み・炎症を緩和する
- 筋肉疲労の緩和
- 肌トラブルを緩和
- 依存症や中毒を緩和する
- がんの症状やがん治療の副作用の緩和(医療処方の場合)
- けいれんを抑え、てんかん等の発作に効果(医療処方の場合)
- 神経を保護し、神経変性疾患の治療にも効果(医療処方の場合)
<ストレス緩和>
たとえばマウス実験によると、ストレスや不安状態にあるマウスにCBDを与えると、不安行動が低下し、心拍数の上昇も抑えられたことが分かっています。また人間におけるテストにおいても不安状態が改善されたほか、対人恐怖やPTSD(=心的外傷後ストレス障害)、不安が原因となっている不眠症などへの効果も期待できるとされており、不安緩和やリラックスなど、精神的な安定を求めてCBDに注目する人が急増しています。
<痛み・炎症緩和>
痛みや炎症の緩和としては、イギリスの製薬会社GWファーマシューティカルズが開発したガン疼痛治療薬「サティベックス(一般名:ナビキシモルス)」がよく知られています。こちらはCBD やTHCを組み合わせた口腔用スプレーで、2005年にカナダで多発性硬化症の痛み緩和の改善薬として承認されたほか、2018年11月1日にFDA(米国医薬食品局)の承認も得て、てんかんやガンに伴う痛みなど様々な分野において臨床実験が進んでいます。
また痛みや炎症を抑える効果が知られるようになることで、プロのスポーツ選手や熱心なアスリートの間でパフォーマンス向上のためにオイルやバームにCBDを配合した製品が増えました。
2018年には世界ドーピング防止機構がCBDが禁止薬物リストから除外=容認されたことで、スポーツ界でも利用するアスリートが増えてきています。
炎症を抑える効果を応用して、美容目的のコスメも増え女性ファンも獲得しています。
<依存症の軽減>
依存症改善への研究も進んでいます。タバコの代わりにCBD製品を吸引した被験者は、プラシーボ薬を吸引した被験者に比べて喫煙量が40%も減少し、その後も効果が一定期間持続したことが分かっています。
また1974年〜2018年の間に発表された26件の先行研究をリサーチしたレビュー論文(総説論文)では、アルコール中毒のマウスにCBDを投与するとアルコール摂取量が減少することが分かっています。
CBDが喫煙量を下げアルコール依存症を緩和できれば、これらの物質による心身へのダメージも同時に減らすことになります。そして将来的には依存症に派生して起こる肥満や成人病、精神疾患の予防にもつながるでしょう。
CBDを使用する時の注意は?
CBDには深刻な副作用は見つかっておらず、商品の品質さえ確認し、使用量を守っていれば安心して摂取できるサプリメントであると言えます。また2019年にWHO(世界保健機関)が安全性に問題はないという見解を発表したことをきっかけにして、CBDの認知はますます広まっています。
しかしどんなサプリメントでも同じですが、過剰な摂取は避けたいもの。体の様子と相談しながら、少なめの量でスタートして徐々に増やしていき、自分にあった摂取量を見つけることが大切です。
そして、ほかのサプリメントや医薬品との併用を考えている方、試したが体に合わない、何かしらの異常を感じるといったことがあればすぐ使用を中止し、医師や薬剤師への相談をおすすめします。
まとめ
CBD製品は現在、日本では健康食品・サプリメントとして扱われており、効果や効能についての医療的な主張をすることはできないのが現状です。
しかし海外の事例が示すように、ヘンプから生産されるCBDは素晴らしい可能性を秘めています。正しい情報を手に入れ安心で信頼できる商品を見極めた上で、日常のセルフケアとして取り入れてみるのも一案ではないでしょうか。
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引用元
<タバコ依存>
Clinical Psychopharmacology Unit, University College London, London, UK
Cannabidiol reduces cigarette consumption in tobacco smokers: Preliminary findings
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S030646031300083X
<アルコール依存>
エンドカンナビノイド・システム
http://cannabis.kenkyuukai.jp/special/index.asp?id=19132
ラファエル・ミシューラム博士