
ヘンプ由来のCBDなど、ヘンプの持つ成分の医療効果などが認められていても、まだまだ危ない薬物のイメージを持たれることも多いヘンプ。より危険な薬物を使用する可能性が高くなると言われることが多いですが、本当にそうなのでしょうか。
なぜ両極端な意見が生まれるのか?
大麻という言葉を聞くと、いまだに恐ろしい薬物というイメージを抱く人は少なくありません。大麻が薬物中毒を引き起こしたり、より危険な薬物への入り口となる「ゲートウェイドラッグ」だと考えられていることも、日本だけでなく海外においても、医療大麻の理解を妨げる大きな要因となっています。
一方で、大麻草が副作用の少ない医薬品としての可能性を秘めているという意見や、気候変動問題の緩和に役立つ作物になるといった声も広がっています。このような極端に異なる見解は、一体どこから生まれるのでしょうか?
ゲートウェイドラッグ説とは何か?
ゲートウェイドラッグ説というのは、タバコやお酒、大麻など比較的軽い薬物を使うことが、もっと危険な薬物を使う入口(=ゲートウェイ)になるかもしれない、という考え方です。この考え方は薬物の問題を考えるときによく話題になり、大麻を厳しく規制する理由のひとつとして使われてきました。
しかし、この説には反対意見もたくさんあります。たとえば、大麻を使った人があとで他の薬物も使うことがあっても、それが本当に大麻のせいなのかはわかりません。それともその人の性格や周りの環境、薬物を手に入れやすい状況など、ほかの理由が関係しているのかをちゃんと見分ける必要がある、ということです。
科学的に証明されているの?
これまでの研究では、ゲートウェイドラッグ説についていろいろな意見が出ています。
多くの調査で、大麻を使用したことがある人は、使ったことがない人よりもほかの違法薬物を使う可能性が高いことがわかっています。例えば、アメリカの国立薬物乱用研究所(NIDA)の報告書でも、大麻使用者は非使用者よりも他の薬物を使う確率が高いとされています。
しかし、これは関連があるというだけで、「大麻が直接ほかの薬物の使用を引き起こす」と証明されていることとは違います。薬物を使いやすい人が、まず身近で手に入りやすい大麻から始めるという可能性もあるのです。これは「共通の脆弱性」という考え方で、遺伝や性格、環境などの影響で、もともと薬物を使いやすい人・依存しやすい人がいるということを意味します。
動物実験では、大麻に含まれる成分の一つ、THC(テトラヒドロカンナビノール)が脳の「快感」を感じる部分に働きかけて、他の薬物を使いやすくする可能性が示されています。
しかしこれも、実験の結果がそのまま人間にも当てはまるかどうかは分かりません。人間の脳は動物よりずっと複雑であり、薬物を使うかどうかは脳の仕組みだけでなく、心理や周りの環境も大きく関わっているからです。
環境による影響も大きい

人間は「社会的な動物」とよく言われます。私たちの価値観や行動は、周囲の人々、文化、習慣といった社会的な環境から大きな影響を受けています。
たとえば、他人の意見や態度に無意識に合わせてしまう「同調行動」や、集団の期待に応えようとする「社会的圧力」などがその例です。こうした傾向は、私たちが長い進化の中で集団の中で生き延びるために、協調し、調和を重んじてきたことの名残だと考えられています。
このような社会的な影響は、ゲートウェイ効果について考えるときにも、重要な視点になります。
たとえば、大麻が違法とされている地域では、大麻を手に入れるために闇市場にアクセスする必要があり、結果として、より危険な薬物を扱う人々と接触する機会が増えてしまいます。薬物を使用する仲間とのつながりもできやすくなり、そうした環境が、他の薬物に手を出すきっかけになってしまうことがあります。
一方で、大麻の使用が法律で認められ、安全に管理された場所で入手できる地域では、こうした違法なルートに頼る必要がなくなります。その結果、より危険な薬物に出会うリスクも減ると考えられているのです。
このように大麻の合法化がゲートウェイ効果をむしろ軽減する可能性がある――という考え方もあるのです。
大麻=ヘンプを解放する動き
近年、ではヘンプ(大麻草)から抽出される成分の一つ、カンナビジオール(CBD)が」大きな注目を集めています。CBDは、精神に影響を与える成分のTHCとは違い、体や心の病気を治すために役立つと期待されています。そのため、ゲートウェイドラッグ(危険な薬物の入り口になるという説)とは全く違う話として考えられています。
CBDは、炎症を抑えたり、不安を和らげたり、痛みを和らげたりする効果があることから、てんかんや慢性的な痛み、不安障害、不眠症など、さまざまな病気の治療に使われる研究が進んでいます。世界保健機関(WHO)も、CBDには依存や乱用の心配がほとんどないと評価しており、安全性の高さが特徴です。
がん治療の副作用を和らげたり、転換の症状を緩和したりする作用もあり、依存症に関わる神経回路に働きかけるため、中毒性の高い鎮痛剤オピオイドやアルコール依存症の治療に役立てるための研究も進んでいます。
このようにCBDが広まることで、社会のヘンプ植物に対する見方も変わってきました。「大麻=危険な薬物」というイメージが少しずつ薄れ、ヘンプが持つさまざまな可能性に注目が集まっています。CBDの存在は、ヘンプのすべての成分や使い方を一くくりにして考えるのは間違っている、ということを示しているのではないでしょうか。

必ずしも危険な「入り口」ではない
「ヘンプは本当にゲートウェイ・ドラッグなのか?」という疑問に対して、現在の科学的な見解は「単純にそうとは言えない」となっています。
確かに、ヘンプを使う人と他の薬物を使う人が重なることはありますが、それが必ずしもヘンプの使用が原因だとは限りません。社会的な環境や個人の背景、薬物へのアクセスのしやすさなど、さまざまな複雑な要因が関係しているのです。
ヘンプや薬物の問題について、もっとよく理解するためには、過去の固定観念にとらわれず、最新の科学的知見に基いてしっかり考えて話し合うことが大切です。
また薬物に対する議論で大事なのは、ある薬物や使用者だけを悪者にすることではありません。薬物の乱用には心の病気や社会からの孤立、貧しさ、教育の差、など、いろいろな環境が関わっています。そういった根本的な問題に同時に目を向けることが大切になります。日本でも規制緩和の動きが始まっていますが、ヘンプの持つ可能性にも新たなスポットが当たるのではないでしょうか。
<参考資料>