
パンデミックがきっかけで生まれた、心と体を癒す新しいアート「カナボンサイ」。ガーデニングと医療用大麻を融合させたこのユニークな取り組みは、創始者自身の体験を通して、CBDなどヘンプ成分とアートによる新しいセラピーの可能性を探ります。
パンデミックが生んだ癒しのアート
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの日常を一変させました。感染症そのものへの不安に加え、外出自粛や人との交流の制限は、世界の多くの人々にストレスや孤独感をもたらしました。
こういった環境の変化の中で、これまで心の不調とは無縁だった人々でさえ不安を感じやすくなり、不眠といったメンタルヘルスの悩みを抱えるケースが増加しました。そして不安やストレスを軽減しようと、多くの人がセルフケアとメンタルヘルスに目を向けるようになりました。不眠や不安の緩和に効果があるとされる大麻由来成CBD(カンナビジオール)や、大麻草に含まれるその他の薬理成分にも、これまでにない注目が集まりました。
ハワイの豊かな自然の中で育ったデイヴィン・カルヴァーリョ氏も、例外ではありませんでした。マリンスポーツに明け暮れ、ハワイの伝統的な食べ物であるタロイモの栽培に熱中していた彼は、世界的なパンデミックのさなかに原因不明のパニック発作に苦しむようになり、強い不安や恐怖から、何度も救急車で病院へ運ばれる日々が続いたといいます。
そんな中、カルヴァーリョ氏が心の安らぎを見出したのはガーデニングでした。庭仕事に没頭するうちに、激しい不安やパニック状態が和らいでいくことに気づいたのです。そして友人が送ってくれた盆栽の動画に心を奪われた彼は、すぐに盆栽について学び始めました。自然の中で育った彼にとって、盆栽を細やかに手入れしていく作業が、新たな癒しとなっていったのです。

カナボンサイの誕生
カルヴァーリョ氏は、ハワイ州で医療大麻の登録と個人栽培の許可を得て、その恩恵を受けられるようになりました。彼はその頃、伝統的な盆栽が完成するまでに数年かかることを知り、成長の早い医療大麻の栽培に盆栽の技術を応用することを思いつきました。
こうして、盆栽よりも短期間で美しく、かつ医療に役立つ実用的な鑑賞植物「カナボンサイ」が誕生します。カナボンサイとは「カンナビス(大麻草)」と「盆栽」を組み合わせた造語。その中心となるのは、大麻草の樹形を美しく整えていくことです。
カルヴァーリョ氏は、枝の配置や鉢の角度を工夫することで、まるでミニチュアの樹木のように見える独自のカンナビス盆栽を作り出しました。目指すのは、本物の木のミニチュアのような仕上がりで、枝の数や樹の形、高さや葉の茂り具合に至るまで、細部にわたり丹念に設計していきます。
ガーデニングは、単なる趣味や作業にとどまらず、五感を優しく刺激することで体内のストレスホルモンを減少させたり、現在の状態に目を向けるマインドフルネスの状態を促したり、私たちのメンタルヘルスに多岐にわたるポジティブな効果をもたらすと言われています。
彼の始めたカナボンサイは、医療ように役立つだけでなく、自分だけでなく周りの人々を楽しませるアートにもなっていったのです。
CBDとカンナビノイドがもたらすヒーリング
大麻草は、古くから薬草として重宝されてきた植物で、現在も医療分野での研究が進められています。ヘンプ・またはカンナビスと呼ばれる大麻草には「カンナビノイド」と呼ばれる化学物質が100種類以上含まれており、人体に取り込まれると、体内にあるカンナビノイド受容体と結びつき、心身にさまざまな作用をもたらします。
代表的なカンナビノイドには、THC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)があります。THCは精神作用を持つ成分として知られており、気分の高揚や痛みの緩和といった効果が期待される一方で、精神を高揚させる副作用があります。一方のCBDは、精神作用をほとんど持たず、不安の軽減や抗炎症作用、睡眠の質の向上などが報告されており、特に医療分野での注目が高まっています。
こうしたカンナビノイドの特性を活かし、大麻草は現在、てんかんや慢性疼痛、不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、さまざまな疾患に対する治療補助として研究が進められています。

盆栽の美学とストレス社会への処方箋
カルヴァーリョ氏の場合も、ガーデニングによるリラックス効果と医療大麻の薬理作用が相乗的に働き、心身の症状が徐々に改善されていったと考えられます。植物を育てるという行為そのものが、ストレス軽減や情緒の安定につながることは多くの研究でも示されており、彼にとってカナボンサイの栽培は、単なる療法にとどまらず、自己回復のためのクリエイティブなプロセスだったのでしょう。
カルヴァーリョ氏は、自身の心身のバランスを整え、周囲の人々も癒すために、さらなる試行錯誤を続けています。現在、彼はローズクォーツやアメジストといったクリスタルをカナボンサイの栽培に取り入れる試みも行っています。これは、クリスタルが持つとされる鎮静作用やリラックス効果をカナボンサイに宿したいという彼の思いからです。
さらに盆栽としての美しさを追求するため、丈が短く、枝が密集しやすい品種を選ぶといった工夫も惜しみません。私たちもサプリメントを取り入れるなど、身近な場所で心身のバランスを整えるヒントが見つけることができるかもしれませんね。
CBDの医療的可能性とこれから
CBDを始めとするカンナビノイドは、その幅広い可能性から世界中で注目を集めています。今後さらに研究が進み、法制度の整備が進展することで、私たちの健康やウェルビーイングを支える新たな選択肢として、CBDの役割はますます大きくなっていくことでしょう。
<参考資料>