大麻取締法改正案が国会で成立し、大きな一歩を踏み出すことになった日本。これまでとどのような点が変わるのでしょうか。
新しい大麻取締法。どこが変わったのか?
「ダメ。ゼッタイ。」というフレーズとともに語られることの多い大麻。大麻の乱用を防ぐための法律は大麻取締法と呼ばれ、大麻の栽培、製造、輸入、輸出、販売、譲渡、所持などを規制しています。この法律は、国際的な潮流に沿って2023年12月6日に改正法が成立し、「大麻草の栽培の規制に関する法律」に生まれ変わることになりました。改正法の施行日は、公布日から1年以内の施行が予定されています。
以前と変わった主な改正点は大きく3つあります。
- 医療用大麻が認められるようになる
大麻草由来医薬品の製造・販売・使用が解禁されます。
対象となるのは、てんかん治療薬として有効性が認められている医薬品に限られます。 - 部位規制から成分規制へ
これまでの部位規制(花穂や葉など)から、THC(テトラヒドロカンナビノール)など成分による規制に変わります。
向精神作用があり、規制対象となる成分THCの濃度上限は、今後政令で定められます。※現在、EUでは産業大麻は0.2%以下、米国では0.3%程度に規定されています。 - 大麻使用罪の創設
大麻の使用行為が麻薬施用罪(7年以下の懲役)として処罰されます。
対象となるのは、所持量に関わらず、すべての使用行為です。
これまでは輸入・栽培、所持や譲渡をしたりした場合は懲役刑が定められていますが、使用については罰則がありませんでした。しかし改正後の大麻の使用は、なし→7年以下の懲役、所持や譲渡、輸出入などほとんどの条項で、以前よりも懲役年数が伸び(7年→10年程度)、罰金額も上昇しています。
つまりこの改正は、医療用大麻の有効性を認め、医療大麻を必要とする人々に届けられるようになる一方で、その他については重罰化しています。そのため法改正とはいえ、世界的な大麻解禁の流れとは逆行しているという指摘もあります。
医療大麻の有効性が認められたことで、慢性疾患や難治性の症状を抱える人々が大麻治療を合法的に選択肢として選ぶことができるようになります。
しかし大麻の乱用や社会への悪影響を懸念する声も根強くあるため、意見の対立が生じています。こういった背景からも改正では使用に対する罰則が強化されることになったようです。
あらためて、大麻ってどんなもの?
長年にわたり規制されてきたため、大麻という名前は知っていても実際はどんなものか知らないという人も多いのではないでしょうか。大麻草(学名:カンナビス・サティバ・エル)は、中央アジア原産の背の高い一年草植物です。日本を含め古くから繊維、食用油、医薬品などの原料として栽培され、近年では、医療用や嗜好品としての利用も注目されています。
また日本でファッションや家庭用品に使われる「麻またはリネン」と呼ばれる素材とは別物です。大麻草は現在ではカンナビス、またはヘンプと呼ばれることが多く100種類以上のカンナビノイドと呼ばれる化合物と、テルペンと呼ばれる芳香成分を含んでいます。
- カンナビノイド:
⦁ 代表的なカンナビノイドとして、THCとCBDがあります。
⦁ THCは、鎮痛・鎮静作用のほか、精神的な作用をもたらす主要な成分です。
⦁ CBDは、鎮静作用やリラックス効果をもたらす主要な成分です。 - テルペン:
⦁ 大麻草の香りや風味を決定する植物全般に含まれる成分です。
⦁ リモネン、ピネン、マイセンなど、様々な種類のテルペンが含まれています。
カンナビノイドは、人体に備わったエンドカンナビノイド・システムと呼ばれる、神経系や内分泌・免疫系など、人間にとって大切な生理機能のバランスを調整する仕組みに作用し、心身に影響を与えます。
大麻草に100種類位以上含まれるカンナビノイドの中でも、CBDは副作用がほとんどみられず、日本でも以前から合法となっており、不安や不眠の緩和、難病治療の効果などさまざまな効果が期待されています。一方で、THCは医療効果もあるものの、多幸感や開放感をもたらす精神活性作用を持ち、乱用の危険性が懸念されており、今回の改正ではこの点が大きな争点となりました。
どんなふうに利用されている?
大麻草は、世界中で様々な目的で利用されています。
- 医療用:
⦁ 痛み、不安、不眠症、てんかん、多発性硬化症、アルツハイマー、一部のがんなどの症状の緩和に効果がみられ、各国で研究が進められています。 - 嗜好品:
⦁ 大麻草の一部を乾燥させ喫煙したり、精神作用のあるTHC を抽出して摂取し、精神的な高揚感・酔いの感覚を楽しむために使用されます。カナダなど一部の国ではすでに嗜好品としての使用も合法化されています。 - 工業用:
⦁ 繊維: 衣類、ロープ、紙などに加工
⦁ 種子油: 食用油、化粧品、バイオ燃料などに加工
⦁ 建築材料: コンクリートの代替材(ヘンプクリート) - 食品または健康食品
⦁ 種子(ヘンプシード): 栄養価の高い食品としてそのまま食べたり、粉末にして加工したりされます。また麻子仁(マシニン)と呼ばれ、漢方薬としても使われます。
⦁ CBDオイル:大麻草から抽出した成分CBDを配合した健康食品・サプリが販売されています。
カンナビノイド:世界の規制状況
カンナビノイド、特にTHCとCBDの規制は、国によって大きく異なります。下にいくつか例をあげましょう。
アメリカ合衆国の多くの州では医療用大麻の使用が合法化されており、一部の州では嗜好用大麻の使用も合法化されています。一方で連邦法では、大麻はスケジュールI規制物質に分類されており、娯楽目的の使用は違法されています。
お隣のカナダでは2018年に連邦レベルで嗜好用の大麻についても合法化しました。ルールは各州・地域によって異なりますが、栽培・販売・所持量などに制限を設けています。成人のみが対象です。
ヨーロッパでは国ごとに差がありますが、医療用大麻の使用は比較的一般的です。また、嗜好用の大麻もオランダやスペイン、スイスなど一部の国では、合法ではないが非犯罪化とし、個人仕様に関しては寛容な国もあります。最近では、ドイツが2024年4月より嗜好用大麻を解禁したばかりです。
アジアでは一般的に大麻に対して厳しい姿勢をとっていますが、タイ王国では2018年に医療と研究目的の使用に限定して解禁され、2022年には栽培と一般使用も認められるようになりました。しかしこの動きが急激だったためか、現在では反動する動きも見られます。
まとめ
大麻取締法の改正により、日本では大麻への注目が高まりました。医療目的での大麻利用に関しては、世界的な流れに合わせて解禁される動きが見られますが、同時に大麻に関連した犯罪や問題が発生しないようにする必要があります。世界の大麻関連法が変わる中、慎重な議論と対策が必要です。