最新の研究で、大麻の脳への影響が年齢によって異なることが確認されています。どのようなことが分かっているのでしょうか。
大麻成分の脳への影響:メリット・デメリットは?
最近、大麻草の成分を健康に活用することが注目されています。大麻草(学名:カンナビス・サティバ)にはさまざまな成分が含まれており、欧米の一部ではこれらを抽出して医薬品として使用したり、医療大麻として医師の処方に従って使用することができるようになっています。
しかし大麻はドラッグとして使われてきた歴史もあるように、お酒などと同じくメリットと・デメリットの両方が存在します。特に脳への影響は年齢によって大きく異なることが最近の研究でわかってきました。
これは大麻の主要成分の1つTHC(テトラヒドロカンナビノール)が、脳の重要な領域である海馬や前頭前皮質の発達を妨げ、若者の記憶力や学習能力、運動能力に悪影響を与えるためとされています。海馬や前頭前皮質は、記憶、学習、注意、意思決定などを司る部分です。
2021年に米バーモント大学の行われた研究では、5年ごとに約800人の10代の若者の脳スキャンを行い比較しました。その結果、大麻を使用していた若者は、使用しなかった若者よりも前頭前皮質の領域が縮小していることが分かったのです。
大麻は若者の中では医薬品よりもドラッグとして使われることが多く、米国では日本の高校3年生に相当する12年生の3分の1以上が過去1年間に大麻を使用したというデータがあります。さらに、大麻を初めて使用する人の78%が12歳から20歳の間であることからも、若者の脳への影響が心配されています。
高齢者にはプラスに働く?
一方、高齢者では大麻が記憶と学習に関連する脳領域の神経接続を増やす可能性があるという研究もあります。これは大麻に含まれるもう1つの成分CBD(カンナビジオール)が持つ、神経細胞の成長と保護をサポートする作用によるものとされています。
2024年に発表された研究では、65歳以上の成人100人を対象に、過去1年間の大麻使用状況と認知機能テストの結果を分析しました。その結果、大麻を使用していた高齢者は、使用していない高齢者よりも記憶力や学習能力が高いという傾向が見られました。また脳スキャンでは、使用者の方が記憶と学習に関連する脳領域の活動が活発であることが分かりました。
どんな成分が含まれているの?
古代から薬草として使用されてきた大麻草には、数百種類もの成分が含まれていることがわかっています。医療大麻が合法化されている国やエリアでは、これらの成分を慢性疼痛や癌関連の痛み、てんかん、うつ病、不眠症などの症状の緩和に使っています。また多発性硬化症やパーキンソン病などの症状緩和にも利用する人も増えています。
大麻に含まれる成分の中でも特に注目されているのは、先ほど取り上げたTHCやCBDといった「カンナビノイド類」です。
カンナビノイドは、大麻植物に含まれる化学物質の総称で、現在104種類が見つかっており、それぞれ異なる作用を持っています。
主なカンナビノイドには、次の2つがあります。
THC(テトラヒドロカンナビノール): THCは大麻の主要な精神活性成分で、大麻を使用したときの高揚感の感覚を引き起こします。痛みの軽減や食欲増進といった効果もありますが、過剰摂取や長期間の使用は健康に害を及ぼす可能性があります。
CBD(カンナビジオール): CBDは大麻のもう一つの主要成分であり、THCとは異な、精神活性作用がありません。CBDは抗炎症作用や抗不安作用、抗てんかん作用など、さまざまな医療効果が報告され健康成分として人気が高まっています。
こういったカンナビノイドは、私たちの体内に存在するカンナビノイド受容体と結びついて神経系や免疫系などの生理学的なプロセスに作用し、様々な影響をもたらすことが知られています。
シニアの元気な老後のために
一部の研究者は、大麻からCBDを抽出し摂取することで、認知機能を改善できる可能性を探っています。またCBDは炎症を緩和する効果が広く知られており、オイルやクリーム、経皮パッチ、また食べられるエディブルの形で使用し、関節炎などの治療や痛み緩和にも使われています。
そして認知症やアルツハイマー病の治療に役立つ可能性もあるとしてさまざまな研究が進められています。精神活性作用がないCBDは安全に使用できるのも大きなメリットです。ただし効果は個人差があり、体調や他の薬との相互作用などを注意深く考慮する必要があります。
まとめ
大麻の合法化によって、カナダや米国の一部の州では、大麻に対するマイナスイメージが薄れ、アルコールや代替薬として大麻が市民権を得ています。
特に高齢者の間では、大麻の利用によって多くの患者の体調が改善し、飲酒量が減少したり、従来の鎮痛剤の代わりに体の痛みの管理に役立つことがわかっています。
しかし若者から老人まで皆が安心して利用できるようになるには、投与量や使用方法、そして個々の健康状態についてはまだまだ多くのデータが必要です。また大麻使用によって生じるメンタル面の影響など、さまざまなリスクなども考慮する必要があります。
しかしさまざまなプラス効果がすでに認められていることもあり、将来的には医療のプロの管理のもと、シニアの健康や生活の質を向上させるために活用される可能性は大いにあるといえるでしょう。
参考資料
https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/fullarticle/2781289