2018年に成人向け大麻が合法化されたカナダ。その後の研究で人々のアルコールの消費に変化が見られるというデータが発表されました。
大麻合法国カナダでわかった面白い傾向
カナダで大麻が合法化されてから6年が経ちました。その後の研究によると、合法化以降、国内のビールの売り上げが大きく減少していることがわかりました。
マニトバ大学、ニューファンドランドメモリアル大学、トロント大学の研究者がカナダの各州でのビールの消費量を人口10万人あたりで調査した結果、カナダ全体でのビールの販売は、嗜好用大麻が合法化された直後に急激に減少。合法化が行われた後、毎月、人口10万人あたりのビールの販売量が平均して4ヘクトリットルずつ減少し、合計で136ヘクトリットルの減少が確認されました。
この結果から、大麻成分が依存症治療に有望な効果を持つ一方で、アルコールの摂取量を減らす効果もある可能性が浮上しています。(※ヘクトリットルは、ビールや他の農産物の容量を測るための単位で、100リットルを表します。)
これは一部の人々が心地よさやリラックス効果を求めてアルコールの代わりに大麻を使用するようになったことも大きく関係しているでしょう。
大麻やアルコールがもつ働き
大麻やアルコールは、脳にさまざまな影響を与えます。
アルコールは中枢神経系を抑制する作用があります。これはアルコールが脳内の特定の受容体に作用し、神経細胞の活動を抑制することで引き起こされます。お酒を飲むとゆったりとリラックスした気分になりますが、同時に判断力や運動能力の低下、攻撃性や不安感の増加などの副作用が起こる可能性もあります。また過剰摂取は、記憶障害や行動の変化などのリスクを引き起こす危険性があります。
大麻に含まれる成分は、人体に分布する受容体と結びついて体に働きかけます。大麻に含まれる向精神成分であるTHCは、脳内の特定の受容体に結合し、神経伝達物質の放出やシナプスの機能を変化させます。これによりTHCを摂取した人は高揚感やリラックス感、幻覚を経験することがあります。しかし大量摂取や常習的な使用は、アルコール依存症と同じように不安や被害妄想、認知機能の低下などを引き起こす可能性があります。興味深いことに、大麻のもう一つの主成分であるCBDは、THCのネガティブな効果を和らげるだけでなく、抗不安作用や抗炎症作用、安眠効果などを持ち、医療やウェルネスの分野で注目されています。
大麻成分が飲酒の欲求を減らす?
大麻が飲酒量を減らすメカニズムについては、まだ完全には解明されていません。しかしいくつかの可能性が考えられています。
ドーパミンへの作用: 大麻は、幸せホルモンのニックネームを持つ脳内物質ドーパミンを増加させます。ドーパミンは報酬や快楽に関与するホルモンであり、アルコールもドーパミンを増加させることで依存性を引き起こします。大麻がドーパミンのレベルを満たすことで、アルコールへの依存性が減る可能性があるといわれています。
ストレスへの対処: 大麻成分には抗不安作用やリラックス効果があり、ストレスを和らげることができます。ストレスは飲酒のきっかけになることが多いため、大麻を摂取することで飲酒への欲求を抑える可能性があります。
代替手段としての利用: 大麻が合法化されたことで、アルコールの代わりに大麻を使用する人が増えていると考えられます。
なぜビールだけが?
興味深いことにこの研究ではビールの売り上げが減少した一方で、蒸留酒の売り上げには変化が見られなかったこともわかりました。また瓶ビールよりも缶ビールの売り上げ減少が大きかった
のです。ほかにも、アルコールと大麻を同時に使用する人は少ないようです。
大麻の使用は必ずしも安全ではありませんが、合法化によって大麻をビールの代わりに選ぶ人が増えることで、飲酒に伴うリスクが低減される可能性はあります。まだ合法化から日が浅く、研究は初期段階ですが、今後は大麻の有効性や安全性についてさらに詳細に解明されるていく事でしょう。
アルコール依存症サポートとなる可能性
アルコール依存症とは、飲酒をやめることができなくなり、それによって自分や周囲に問題が起きているにも関わらず、飲み続けてしまう状態のことを指します。飲酒をやめると身体的・心理的に以下のような離脱症状が現れます。
不安や焦燥感
手の震えや身体の震え
不眠や睡眠障害
頭痛やめまい
吐き気や嘔吐
食欲不振や消化器系の不快感
不安定な気分やイライラ
これらの症状は、軽いものから命に関わる重度のものまでさまざまで、専門家のサポートが必要となる場合もあります。また長期的なアルコール依存は肝臓疾患(肝硬変や肝炎など)、心臓病、高血圧、膵臓炎、脳卒中、がんなどの病気を引き起こすリスクを増加させます。
先ほどご紹介したように、近年では大麻由来の成分がアルコール依存症の治療に役立つのではないかと注目を集めています。特にCBD(カンナビジオール)は脳に作用して飲酒の欲求を減らし、アルコールの消費量を減らし、不安や衝動を抑制する可能性があることが動物実験で示されています。
ストレスとCBD
飲み過ぎやアルコール依存症は不安やストレスからも引き起こされます。CBDは不安やストレスを和らげ、リラックス状態に導く作用があります。アルコールを飲んでリラックスしようとする人にとって、CBDを適度に取り入れることで二日酔いや肥満などの問題を回避できる可能性もあります。
またCBDには炎症を抑制する作用もあります。「腸は第二の脳」と言われますが、乱れた食生活や飲酒の習慣によって腸内で炎症が起こり、ホルモンのバランスや気分に影響を与えることがあります。炎症を抑えたりリラックス状態を促すことで、過剰なアルコールへの欲求を抑え「やめたくてもやめられない」というジレンマを軽減してくれる働きがあるようです。
例えばプロレスラーとして人気を博し、テレビ司会者や映画にも出演するアメリカの大スター、ハルク・ホーガンは2023年に自身の依存症経験について語り、依存症になっていた鎮痛剤オピオイドと飲酒をCBDに置き換えることで、健康を向上させ、メンタル面も安定させることができたとメディアに告白しました。
別の研究では、大麻がタバコとアルコールの両方の消費量を減らす可能性が示唆されています。またカナダの医療大麻プログラムに登録している2,102人を対象にした調査では、多くの参加者が30日間でアルコールやタバコの摂取量が減少したと報告されています。
まとめ
今回ご紹介したデーや研究は、大麻が飲酒量を減らすのに役立つ可能性があることを示しています。今後のさらなる研究によって、大麻の効果や安全性についてより詳しく明らかにされることで、将来的には、依存症の治療に役立てていくことができるでしょう。
参考資料