イギリスで医療大麻が解禁されてから5年。現在、普及のためにさらなる研究が進んでいます。
次世代の鎮痛薬への一歩、臨床実験がスタート
2018年、イギリスでは難治てんかん治療のための大麻使用を求める声が高まったことで医療大麻が合法化されました。しかし現在でも国民医療サービスNHSを通じた大麻処方のケースは非常に少なく、またかなり高価なのが現状です。このため多くの人がブラックマーケットでの大麻入手を余儀なくされています。
英スカイニュースによれば、医療大麻がなかなか普及しないのは、臨床研究の少なさにより行政が副作用を心配しているというのが主な原因のようです。これを受けて、医療大麻製薬企業セラドン・ファーマシューティカル社が5,000人の患者を対象に大規模な臨床試験を開始したことが伝えられました。この試験では大麻由来の医薬品の効果と安全性を確認し、多くの患者に医療大麻を提供するのが目的です。またセラドン社は2023年3月に民間クリニック向けの医療大麻提供ライセンスを取得したことも報じられています。
予備研究では500人の患者を対象に臨床実験が行われ、医療大麻が鎮痛薬オピオイドへの依存を減らし、睡眠の改善に役立つことが分かりました。
オピオイドに代わる新しい選択肢
鎮痛剤であるオピオイドは中枢神経系に作用する強力な医薬品として知られています。中枢神経に作用して辛い痛みを和らげますが、過度な摂取は意識や気分に悪影響を及ぼし、依存のリスクを高まります。
特に米国では、オピオイドの過剰摂取や依存症によるによる死亡事例が増加し「オピオイド危機」と呼ばれる社会問題にまで発展しました。このため、副作用が少なく鎮痛効果が高い次世代の医薬品に期待が集まっているのです。
大麻草にはすぐれた鎮痛・鎮静効果のあるCBD(カンナビジオール )やTHC(テトラヒドロカンナビノール)といった生理活性成分カンナビノイドが含まれており、古代から薬草として使われていました。そして光量、湿度、温度、栄養素を完璧にコントロールされた環境で育てられた医療大麻は品質が安定しており、有効成分を豊富に含んでいます。このような高品質な量大麻はより自然な植物由来の鎮痛薬になりうるとして注目されています。
心の健康も大切。メンタルヘルス研究もスタート
英国の名門大学キングスカレッジ・ロンドンでも、2022年から大麻とメンタルヘルスの関係を調査する大規模な研究が進行中です。この「Cannabis & Me(カンナビス&ミー)プロジェクト」を通じて、現在、ロンドンに住む18歳から45歳の6,000人に初期オンラインスクリーニングが行われています。
2024年からは初回スクリーニング後に選ばれた被験者たちが、キングスカレッジ・ロンドンの研究施設で詳細な対面での研究に参加します。ここでは被験者へのインタビューだけでなく、仮想現実(VR)を使った実験や血液採取が行われ、参加者の生理的反応を測定します。さらに、参加者の過去の経験や外傷に関するエピジェネティック・プロファイリングも行われます。エピジェネティックとは、遺伝子の働きを調節するメカニズムを研究する分野で、通称「DNAのスイッチ」とも呼ばれています。
マイナスイメージとの闘い
古代から薬や繊維の素材として利用されてきた大麻草、すなわちヘンプには、長いあいだ違法薬物のイメージがついてまわりました。そのためヘンプに対する誤解や否定的なイメージが未だに根強く存在しています。
一方で、ヘンプには様々な薬理成分も含まれているほか、サステナブルな工業用途や食品、健康補助食品としての利用ができることも知られるようになりました。最近ではヘンプの持つCO2吸収効果や持続可能な資源としての価値が再評価され、さまざまな産業や製品での利用が進められています。
今回の調査では痛み管理(疼痛緩和)の研究がメインになっていますが、他にも医療大麻は様々な効果を発揮することが知られています。
<医療大麻が使用できる例>
てんかんの治療: 特定のてんかん症候群、特にドラべ症候群の治療において、大麻が有効であると言われている。
吐き気や食欲刺激: がんなど化学療法などの治療による副作用である吐き気や食欲不振の緩和。
炎症の抑制: 大麻の成分の一部は、炎症を抑制する効果があるとされ、関節炎や炎症性腸疾患などの治療に期待されています。
不眠の改善: 不安状態をリラックスに導き、不眠の改善に役立つ
多発性硬化症(MS)に伴うけいれんや痛みの症状を緩和する
これらの症状の他にも、総合失調症や自閉症スペクトラム障害(ASD ) に伴う多くの不調を改善できるといわれています。
大麻の主要成分カンナビノイドの研究は1960年代に始まりましたが、2012年の米国での合法化動きを契機に、その研究や関心が急速に増大しました。大麻の健康効果が認められるようになったことで、かつてのネガティブなイメージも変わりつつあります。特に副作用なく健康効果が得られるCBDは、健康やスポーツ界でまず注目され、多くの人々が健康のサポートのサプリメントとして取り入れることに関心を持っています。
安心して治療に専念できる環境を
イギリスでは2024年現在、娯楽目的の使用は現行法で禁止されています。警察は喫煙そのものに関してはかなり寛大で、逮捕しない方針を採っていますが、栽培や販売に関わると厳しい罰が科されます。違法であるため犯罪組織が大麻を取引しており、患者が闇市場に手を出すことで危険なトラブルに巻き込まれるケースも多いようです。
この問題を解決し患者が安心して治療に専念できるようにするには、医療大麻に対する理解と幅広い研究が必要です。本メディアでも医療大麻に関する情報を定期的にアップデートしていきたいと思います。