本稿では米国初の合法な大麻レストランをオープンし一躍有名になった大麻料理シェフ、アンドレア・ドラマーのサクセス・ストーリーを紹介します。
全米初の合法な大麻レストラン
大麻合法化が進む米国ですが、カリフォルニア州では2018年に嗜好用大麻が合法化されました。そして全国に先駆けて登場した合法的な大麻レストランが知る人ぞ知る「ローウェル・カフェ」です。
2019年にLAにオープンしたこの店は、大麻愛好家や大麻に興味のある人、そして最新グルメに敏感な人たちのための居心地の良いスペース。21歳以上であれば誰でも入ることができます。
レストランの前身は、古くから大麻解禁運動を続けてきた歴史ある大麻ブランドの「ローウェル・ハーブ」です。席に着くとフラワーホストと呼ばれる大麻ソムリエがお客の好みにあった大麻製品選びを手伝ってくれます。クオリティの高いメニューは、どれも大麻のもたらす心地よい効果を最大限に引き出すことを目的に作られています。
麻薬カウンセラーから大麻シェフへ
このカフェの立役者は女性シェフのアンドレア・ドラマー。大麻料理のシェフであり麻薬カウンセラーの経験を持つというユニークな経歴の持ち主です。
フロリダ州の保守的な家庭で育った彼女は、薬物防止カウンセラーとして働いていました。また幼い頃から料理が好きだった彼女はLAのパサデナ地区にある有名な料理学校ル・コルドン・ブルーにも通っており、ある日友人に頼まれ大麻入りブラウニーを作った際に、大麻を使った料理に可能性を感じたといいます。また大麻入りの食品は長時間の仕事で疲れた足の痛みを癒してくれることにも気がつきました。
単なる料理好きなだけでなくミシュラン星シェフの元で働き、リッツカールトンLAのエグゼクティブラウンジのシェフも務めていた彼女の腕は本物です。大麻入り料理の腕を競うNetflix の料理リアリティ番組「Cooking on High(クッキング・オン・ハイ) 」の第 1 話では見事優勝を果たしています。
彼女の得意技は大麻成分をブレンドしたバターとオイル。さまざまなタイプの大麻が持つ独自のフレーバーとその効果に精通しており、ぴったりの食材を組み合わせてメニューを構成していきます。
レストランがあるのはアート ギャラリーや有名なナイトスポットが充実しているウェスト ハリウッド・エリア。クリエイティブな人々が集まり最新トレンドを生み出すこのエリアは人々が大麻に対して抱いているネガティブなイメージを払拭し、その良さを広めるレストランのロケーションにうってつけです。大麻が合法化されたとはいえ、公共スペースでの大麻消費は相変わらず禁止されていたため、特別ライセンスを得て合法的に営業を開始するまでには長い時間がかかったと言われています。
将来の夢は?
大麻の料理に加えて食卓を楽しくするレシピ本「カンナビス ・キュイジーン(Cannabis Cuisine: Bud Pairings of A Born Again Chef)」は、その道では有名なレシピ本です。大麻はそのまま料理に入れるとクセが強く食べにくいと感じる人が多いものです。しかし強い味付けで味をごまかすのでは、グルメを楽しむには不十分。大麻の持つフレーバーと効果を最大限に生かしたレシピ作りが彼女の身上です。
健康やメンタルに役立つ大麻料理を広めるため、今後は「ローウェル カフェ」名義のレシピ本も出版したいと考えているそうです。レストランでは地元産の有機食材や季節の食材と大麻とのペアリングを楽しめるイベントや異業種交流パーティなどを企画しています。
アンドレア・ドラマーはチーフシェフとして活躍するだけでなく、大麻教育や普及をめざした講演活動も行っています。黒人女性のシェフやインフルエンサーがまだ少ないため、ダイバーシティに関する活動にも取り組むなど意欲的です。
大麻がこんなにポピュラーになった理由とは
大麻は産業作物や薬、そして麻薬として大昔から存在してきた植物。なぜ今になってこんなに注目されているのでしょうか。それはこの植物が秘めた薬理効果にあります。
大麻というと危険薬物のイメージを持つ人も多いのですが、大麻の中に含まれる100種類以上ある生理活性成分カンナビノイドの研究が解明されてきたことで、この植物に秘められた不思議な医療効能が注目されるようになっています。大麻喫煙によって起こる陶酔した気分、いわゆるハイの状態を作り出すカンナビノイドTHCも、難病が引き起こすつらい痛みやけいれんを抑える事や、がんの抑制など様々な病気の治療やサポートに役立ちます。また精神高揚作用のないカンナビノイドCBDは、痛みや炎症を抑え、不安・不眠を改善することから、健康サプリメントとして世界中で非常に人気が高くなっています。
アメリカで嗜好用大麻が合法化されている州は18州とコロンビア特別区(ワシントンDC)プラス(2022年1月時点)です。医療用大麻は全体の7割の州ですでに合法化されています。
2022年にはバイデン米大統領が大麻の単純所持で有罪判決を受けた人全員に恩赦を与えると発表するなど、アメリカにおける大麻規制は急激に緩やかになりつつあります。
グルメでマイナスイメージを塗り替える
2022年10月に発表されたデータによると、米国人の59%が大麻は医療・娯楽目的ともに合法にすべき、もしくは医療大麻のみ合法であるべき (30%) と回答しています。反対派は10%にとどまりました。(ピューリサーチ センター調査)
バイデン米大統領の恩赦スピーチでも言及されていたとおり、大麻を非合法にすることで無駄に犯罪者を量産して国民の人生を狂わせるよりも、大麻の持つメリットを上手に生かして医療やビジネスに生かし、アルコールのように一定のルールを設けた上で税収を得て行こうというのがリベラル派アメリカ人の意見のようです。
アンドレア・ドラマーのようなスタイリッシュな花形シェフたちの活躍によって、米国の大麻文化がより洗練されたものになり、人々の意識もさらに変わっていくのかもしれません。
<参考資料>
https://www.vogue.com/article/meet-andrea-drummer-the-executive-chef-of-lowell-cafe