バイデン大統領の「大麻恩赦」のニュース以来、アメリカで大麻の非犯罪化の動きが広まっています。大麻をめぐる状況は今後どのように変わっていくのでしょうか。
大きく変わるアメリカ政府
2022年10月にアメリカのバイデン大統領は、過去に大麻所持で米連邦法に違反し有罪判決を受けた人全員に恩赦を与えると発表しました。1991年以降、大麻所持によって連邦法下で有罪判決を受けた人は6500人にのぼるとされています。
バイデン大統領は大統領に当選する前から「大麻使用の非犯罪化」を公約に掲げていました。
「いかなる人も、大麻使用や所持だけで刑務所に入るべきではない」という演説を行ったこともあります。
大統領は恩赦の発表同日に「大麻の所持で刑務所に送られることで、あまりにも多くの人々の人生を狂わせてきた。大麻はすでに多くの州で合法化されている」というメッセージを伝えました。また合法化されている州もある大麻がヘロインやLSDと並んで最も危険な物質として分類されている連邦法の矛盾について触れ、見直しを進めるとしています。
米国では大麻所持で投獄される人は人種的マイノリティである確率がひじょうに高く、大麻所持という「前科」のせいで雇用や住宅、教育の機会が奪われている問題についても言及しました。
公約にあった大麻所持を犯罪とみなさない「非犯罪化」までにはいたりませんでしたが、アメリカ合衆国全体としての大麻への態度は大きく変わってきているようです。
大麻研究のカベが取り払われる
バイデン米大統領は12月に入り、大麻使用・研究に関する規制撤廃の動きとして、「医療用マリファナおよびカンナビジオール研究拡大法(the Medical Marijuana and Cannabidiol Research Expansion Act)」に署名しました。これにより、医療目的などで大麻を研究したい研究機関への規制が大幅に緩和されることになります。
大学や研究機関はアメリカ合衆国保健福祉省 (HHS) とアメリカ食品医薬品局 (FDA) のガイダンスに従って、研究や医薬品管理のために大麻を栽培、製造、流通、分配、所有するための麻薬取締局 (DEA) のライセンスを取得できるようになり、研究へのカベが取り払われます。
民主党では「何十年もの間、連邦政府は科学と進歩の邪魔をしてきました。大麻に対する見当違いで差別的なアプローチを広めてきたのです。これは連邦大麻法を是正するための記念碑的な一歩になります。」という共同声明を発表しています。
政府の方向転換の背景には、州ごとに進んでいる大麻解禁の流れがあります。医療用大麻は37州と3つの米領で合法になっており、嗜好用大麻も19の州と首都ワシントンDCですでに合法です。また大麻はビジネスや雇用を生み出す産業としても機能しています。合法化される州が増えるにつれ使用者も増加し、大麻使用の経験がある成人の割合は、過去最高の49%に達したと報じられているのです。
大麻はいつから違法になったのか
アメリカでは古くから、ロープや布、紙など、丈夫な麻繊維で生活用品を作るために大麻が栽培され使用されてきました 。
大麻栽培は1600 年頃にイギリス領植民地だった米バージニア州ジェームズタウンの入植者によって始まりました。大麻の栽培は義務化され、入植者はロープ、帆、衣類の製造のために大麻を栽培し、長いあいだ米国の主要な収入源となっていました。
しかしアメリカで綿花農業が普及するようになると状況は一転します。南北戦争(1861~65年)をピークに大麻栽培は下り坂となりましたが、1910 年代に入りメキシコ革命から逃れたメキシコ難民が大麻を喫煙する習慣を持ち込んだことから、今度は移民や労働者などの間で嗜好用に大麻が消費されるようになります。
そして1930 年代、大恐慌の真只中で悪名高き禁酒法(Prohibition)が廃止されます。それに伴い政府は1937 年にマリファナ税法を可決し、米国では実質的にマリファナが違法になりました。背景にはアルコールの売り上げを伸ばしたい製造業界や、移民の喫煙習慣を嫌う人種差別的な思惑があったと言われています。
その後、カリフォルニア州では全米で初めて医療用大麻の使用を合法化される(1996年)まで約60年の間は違法の恐ろしい植物として扱われてきたのです。
リスクを知った上で対策を用意する
大麻合法化によって
犯罪が増えて治安が悪化、交通事故が増える
心身の健康に悪い
中毒者が増える
若者への悪影響が大きい
といった懸念の声も多数上がっています。
しかし大麻合法化を支持する人々が約7割、医療大麻に関しては賛成派が9割まで増えているという背景もあり、バイデン政権はこれからも規制撤廃に動くものと見られています。
大麻には脳や精神に影響を及ぼす物質が含まれています。このような状態を作り出す主成分のTHC(テトラヒドロカンナビノール)は精神作用が高いため反対派の懸念材料となっています。一方でTHCは強い鎮静作用・鎮痛作用・抗がん作用・催眠作用もあることがわかっており、医療に活用することでこれまでの化学薬品では得られなかった病気治療の効果があげられることも期待されています。
メリット・デメリットがあるのはアルコールや他の薬品でも同じともいえるでしょう。起こりうる事態に向けてリサーチし適切な対策・防止策を用意することで、大麻を容認する方向に傾いているのが現在のアメリカの姿勢。「危険を回避するにはただ禁止すれば良い」という時代は終わりを迎えているようです。
グリーンラッシュに乗り、経済を活性化
世界の様々な国で「グリーンラッシュ」と呼ばれる大麻ビジネスシーンの活性化が起こっています。北米や欧州はその牽引役として、続々と解禁・合法化が行われ経済を活性化しています。最近の例では、パンデミック後の観光業界復興策として厳格な大麻規制で知られるタイが医療大麻を解禁し、医療大麻ツーリズムを生み出し国内外の注目を集めています。
日本でも大麻取締法の改正が検討されていますが、各国の例を参考にすることで日本社会や文化に沿った形で合法化への道を歩むことができるのではないでしょうか。
<参考資料>