目の動きをスキャンし、大麻使用の影響が出ているかどうかを正確にチェックできるデバイスが開発されました。今後どのように役立てられていくのでしょうか。
大麻合法化=野放し状態ではない
大麻合法化が進んでいる現在の米国。しかし嗜好品として大麻が楽しめるようになった州でも、人々の安全や健康を守るために、お酒やタバコと同じように使用できる場所や年齢制限など様々なルールが設けられています。
例えば2018年から嗜好用大麻も含め合法となっているカリフォルニア州では、嗜好用大麻の所有や使用が認められるのは21歳以上の成人のみに限られ、自宅喫煙はOKでも公共のほとんどの場では使用が制限され、禁煙となっている場所では大麻や大麻製品の使用も禁止されています。また不動産所有者は運営する不動産における大麻の使用や所持を禁止することができます。若者を守るために、学校の近くや子どもがいるデイケアセンターやユースセンターといった施設でも使用できません。飲酒運転と同じように大麻を吸いながらの運転や大麻の影響を受けた状態下での車の運転も禁止されています。
また州ごとの合法化が進んでいるものの、米連邦法では大麻所持や使用が現在も禁止されています。このため例え大麻が合法になっているカリフォルニア州内でも、国立公園のような連邦所有のエリアでは大麻使用や所持は違法となります。大麻を持ったまま他州を訪れることも禁止。合法化=野放しではなく、州ごとに様々な規制が設けられているのです。
大麻とお酒、運転ミスを引き起こしやすいのは?
この合法化によって懸念されているのが大麻帯び運転です。大麻にはカンナビノイドと呼ばれるさまざまな生理活性成分が含まれていますが、向精神作用があるカンナビノイドの1つTHC(テトラヒドロカンナビノール) は、大麻喫煙における「ハイ状態」を引き起こし、運転能力に様々な影響を与えます。
THCはリラックス感や多幸感をもたらしますが、時間の感覚がゆっくりになる・判断速度を遅らくする・ミスが増えるなど運転に必要な能力を低下させます。このため「車両追い越しの判断ミスや、速度メータを見落とす、集中力の低下、緊急時に誤った対応をしてしまう」といったリスクが増えると言われています。また大麻とアルコールの併用はこの傾向をさらに加速させることがわかっています。
興味深いことに、酒気帯び運転では気が大きくなり、スピード違反や追い越し運転をする傾向が高まる一方で、大麻帯び運転は走行スピードが遅くなる傾向にあるといいます。アメリカ国家道路安全局(NHTSA)の研究では「大麻使用状態は飲酒状態よりも運転ではるかに安全」というデータもあります。大麻には様々な種類があり、個人の状態も様々であることを考えると鵜呑みにはできない研究結果ですが、飲酒運転の方が通常と比較し事故率が6〜7倍に跳ね上がるという点は心に留めておきたいものです。
また大麻常習者よりもたまにしか吸わない人の方が、運転能力への影響が大きく現れることも分かっています。これは常習者が自分は大麻を使用していることを意識しているため「意識して運転スピードを落とす、車間距離を保つ」など、安全を心がける傾向があるためではないかと考えられています。
血液検査よりドライバーに公正
米モンタナ州に本拠を置く企業Gaize は、ユーザーの目をスキャンし大麻の影響で運転に向かいない状態にある人を検出できるデバイスを開発しました。
大麻成分に含まれるTHCは摂取後に体脂肪に蓄えられ、ゆっくりと放出されながら1ヶ月ほど血液中に存在します。このためTHCが検出された全てのドライバーが運転できない状態にあるわけではありません。つまり3日前に喫煙したが運転中は「しらふ」だったのに、血液検査では大麻帯び運転として扱われる可能性があるのです。
このような不当な結果を招く検査方法を変えるため、ドライバーが運転に適した状態であるかどうかをチェックできる検査方法の開発が待ち望まれていました。
Gaize社 では、350人の被験者と3億5000万を超えるデータを収集し、眼球運動への影響をチェックして大麻成分の影響を測る世界最大のデータセットを作り上げました。開発されたデバイスはゴーグルのような形をしており、不随意の動きと反射反応など被験者の眼球の動きを測定した上でリアルタイムの薬物障害を測定することができます。
血液検査や薬品を必要としないため、初期費用のみで検査ごとの費用はほぼゼロ。検査から6分で結果が分かるというメリットがあります。
様々なデバイスが生まれている
大麻による運転能力への影響は、使用者の消費頻度や消費方法によって差が出ます。このため現在行われている血液検査や尿検査による大麻検査は、公正かつ正確とはいえないのではないかという声が上がっています。
このような眼球スキャンはアルコール検知器のように法廷で証拠として使用することはまだできませんが、大麻使用運転の疑いや偏見を取り除き「運転できる状態かどうか」のみにフォーカスした公正な判断を行うことができます。
カリフォルニアで開発された呼気検査デバイス、エレクトラテクト(ElectraTect)やハウンド・ラボ(Hound labs)もその1つです。これらデバイスでは呼気を分析することでTHCの検出ができ、血液検査よりスピーディに検出プロセスが進みます。
CBD+車の運転は安全なの?
同じ大麻成分でも日本をはじめ広いエリアで合法とされ、サプリや電子タバコなどで人気になっているCBD(カンナビジオール)はどうでしょうか。
シドニー大学で行われた最新実験では、飲酒時のように酩酊状態になったり精神が高揚する効果は確認されず、CBDの1日あたりの最大摂取量である1500mgを摂取しても人々の運転能力や認知能力には影響を与えないと結論付けています。しかし体質や体調によって眠気を感じたり血圧が低下するケースもあるため、そのような時は無理をせず休憩するか、使用を控えた方が賢明です。またほかの薬と一緒にCBDを服用している場合は医師に相談しコンディションを確認し、運転前には使用を控えるといった注意が必要です。
まとめ
大麻成分はアルコールと異なり、体内から排出される時期が比較的イレギュラーであることが分かっています。このため大麻を使用したのがいつだったのか、正確に測ることは難しいのが現状です。公正な判断をしてくれるデバイスの登場は大麻合法化が進むにつれ今後ますます大切になっていくでしょう。
<参考資料>