大麻の煙から直接カンナビノイドを抽出する新技術が米国特許商標庁の特許を取得しました。食用の場合とどのような違いが生まれるのでしょうか。
喫煙でしか得られない効果を引き出す
2022 年 10 月、米国マサチューセッツ州にある医療大麻スタートアップのリアルアイソレーツ(Real Isolates)社は、大麻の煙から有効成分を抽出する技術の特許を取得しました。
この大麻煙抽出物Smokenol ™(スモークノール)は、希少なカンナビノイドを豊富に含んでおり、普段は喫煙によってしか得られない効果を食用で得ることができ、大麻医療に新しい展開をもたらすと期待を集めています。
同社ではこの煙抽出成分を使った製品2種「Smokenol Day™」「Profound Naturals ™」を発表しました。いずれも一般的なそして希少な生理活性成分カンナビノイドが豊富を含み、経口、局所、および吸入式大麻製品の新しいプロダクト作りを可能にしてくれるといいます。
カンナビノイドとはどんな物質?
大麻には100種類を超えるカンナビノイドとテルペンといった生体物質が含まれています。中でもカンナビノイドの一種CBD(カンナビジオール)はストレスや不眠を緩和し、炎症を抑える健効果が高いため、近年ではサプリ的利用だけでなくコスメやペットフード、ドリンクなどにも配合されるようになり、ひじょうに使用範囲が広がっています。
大麻由来ということで違法なのではと不安に感じるかもしれませんが、CBDに関しては精神活性作用や副作用はなく、日本を含め世界の多くの国で合法と認められています。
そしてもう一つの有名なカンナビノイドTHC(テトラヒドロカンナビノール)は、CBDと同じく高い薬理効果を持ちますが精神を高揚させる働きもある成分。摂取すると、いわゆるマリファナのハイ状態を引き起こします。こちらは規制物質として扱われることが多い成分ですが、難病治療に従来の化学薬品にはない効果を発揮することもわかっており、研究が進められています。
テルペンとは?
テルペンは揮発性のある成分で、カンナビスの香りや味を生み出している成分の1つです。 自然界に広く存在し、 植物の精油(アロマオイル)にも多く含まれます。リラックス効果や血圧を下げる働きがあり、アロマセラピーが効果を発揮するのも肌から入ったり、香りとして吸収されるテルペンが関係しています。テルペン=植物の香り成分はダイレクトに脳に働きかけ、気分に影響を与えます。森林浴が人々の心をリフレッシュし癒しを与えてくれるのは、森を歩くことで樹木が発散するテルペン類の一つ「ピネン」が脳に働きかけるからだと言われています。また植物はテルペンの香りと成分で害虫や菌類を寄せ付けないようにして、自らを守っています。
いろいろな方法で抽出できる
ヘンプの種や葉をただ絞っても、これらの成分をピュアな形で取り出すことはできません。
特定の成分を取り出すには「超臨界二酸化炭素抽出」と呼ばれる方法で抽出を行います。
これは大麻麻に溶剤となる超臨界流体(二酸化炭素)を加え、両者の溶解度の差を利用してCBDを抽出する方法で、コーヒー豆からカフェインを取り除いてデカフェを作る際にも使用される方法です。添加剤や汚染物質を使用せずに、天然分子をそのままピュアな状態で抽出できるためCBDサプリメント用など商業利用に向いています。
ちなみにCBD製品のほとんどは、麻薬成分とされる成分THC(テトラヒドロカンナビノール)がほとんど含まれていない産業用のヘンプから生産されています。
「加熱作用がカギ」。喫煙と食用で、効果はどう違う?
大麻製品を摂取する際、喫煙とサプリやエディブルなどの食用大麻では吸収のプロセスはどれほど違うのでしょうか。
喫煙の場合、大麻の有効成分は肺から直接血液に吸収され効果を発揮します。
食用の場合は消化器の内壁から体内に吸収されます。THCは胃から肝臓へ直行すると、肝臓で11-ヒドロキシ-THCと呼ばれる物質に代謝されます。このような体内での吸収プロセスの差が効果の感じ方の違いや、効果が現れるまでの時間などに影響します。
喫煙では大麻に熱を加えることで、植物に含まれるカンナビノイド (およびテルペン) の性質を変化させます。このような差が使用感の違いをもたらすのです。
たとえば大麻に含まれるTHC は熱が加わることで一部 CBN(カンナビノール) に変換され、CBD の一部は CBND(カンナビノジオール) に変換されます。これは、同じ植物でも摂取方法によって吸収される成分の組成が異なることを意味します。
いわゆる大麻通は大麻エディブル(食用)よりも大麻喫煙から得られる効果を好みます。また大麻治療を受ける患者の75% 以上が喫煙の影響を好むというデータもあります。リアルアイソレーツ社の開発した技術により、ヘンプと大麻製品の製造業者は、喫煙で得られるのと同様の効果に加え、エディブルやサプリメントの利便性、持続時間、用量の一貫性を兼ね併せた、便利でより効果的な製品を提供できるようになります。
CBDオイルはどんなふうに吸収される?
食べるでもない・喫煙するのでもない、その中間にあるCBDオイルはどのように吸収されるのでしょうか。
CBDオイルの多くが、食べるのではなく舌の下に直接垂らして粘膜から直接吸収する方法を勧めています。これは消化器に入って内壁から吸収させるよりも早く成分が血流に入るためです。もちろん内服したり食べ物やドリンクに混ぜても問題はないのですが、舌の下からの粘膜吸収とは効き目の現れ方に差があることを知っておくと良いでしょう。
また効き目の感じ方や現れるまでの時間が人それぞれであるように、最適な摂取量も薬やアルコールなどと同じように個人差があります。ある実験では同じ症状を改善するのに必要なCBDの量は人によって数倍も異なることも分かっています。CBDサプリメント購入の際はメーカー推奨量をめやすに使用量を増やしたり減らしたりして、自分にぴったりの飲み方や量を試してみましょう。
まとめ
大麻成分をどのように摂取するのが人体にとって最もベストなのか、そして品質の一定した製品を生み出すにはどうすれば良いのか。「グリーンラッシュ(大麻特需)」と呼ばれる大麻ビジネスブームの中で、様々なバイオテック企業が日々研究を重ねています。大麻医療界でのイノベーションが進むことで、これまでにない新しい製品やサービス、様々な病気への治療法が見つかります。
<参考資料>