大麻合法化の準備が進むドイツで、政府の初期草案が新聞にリークされ話題となりました。どのような内容が含まれていたのでしょうか。
2024年に合法化スタートの見通し
嗜好用大麻の合法化に向けて動き始めているドイツ。2017年の時点で医療大麻のみ合法化されていましたが、政府は2022年10月にいよいよ嗜好用大麻の購入と所持を合法化する法案を閣議決定しました。法制化は2024年になる見通しで、もし実現すればヨーロッパで最も寛容な大麻政策をとる国になると言われています。
ヨーロッパ中の注目が集まる中、ドイツの新聞は2022年10月に入り大麻合法化に関する政府の初期草案をリークし話題になっています。
ドイツの大麻合法化に関するために検討されているルールはざっくりまとめると以下の通りです。
大麻所持は18歳以上の成人が対象で上限は20グラム
家庭での栽培は2株に制限する。
大麻製品は認可された店舗や薬局で販売され、精神作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の上限は15%、18歳から21歳のユーザーの場合は上限を10%に設定する。
大麻製品のマーケティングや広告は禁止され、大麻薬局は学校、子供、および若者の施設から離れた場所に配置する。
国内で販売される娯楽用大麻の供給は、ドイツ国内で栽培および製造されなければならない(海外からの大麻製品の輸入は禁止)。
18 歳未満の若者の大麻所持は、犯罪に問われることがない。
消費税とは別に、THCの濃度に基づく新しい大麻税を導入し、大麻に関した教育や乱用防止プログラムを導入する。
これらはまだ草案に過ぎませんが、メディアではルールに対する問題点がすでに指摘され議論を呼んでいます。
「あまりにも限定的で逆効果」の声
たとえば、ほとんどのユーザーは精神活性作用のある成分 THCの含有量が15% を超える製品を求めているため、上限を低く設定すると違法マーケットにユーザーが流れてしまい市場に混乱を引き起こすという声があります。
また「大麻輸入を許可しない」という案も大きな批判を浴びています。ドイツは 2021 年に医療および科学目的で約 20 トンの大麻を輸入しましたが、年間生産量は約 2.6 トンにすぎません。このため現在の国内生産では需要を満たすことができず現実的ではありません。
大麻合法化はブラックマーケット撲滅策にもなりえますが、安全性を懸念するあまりルールが細かくなりすぎるとユーザーが不満を感じ、結局ブラックマーケットが勝つことになってしまっては本末転倒です。嗜好用大麻が合法化されれば若者をはじめとしたユーザーへの影響もかなり大きくなるでしょう。
薬にも毒にもなるTHC
今回のニュースで大きな話題になっているTHCとはどのような物質なのでしょうか。
THCは「テトラヒドロカンナビノール」の略で「デルタ9-テトラヒドロカンナビノール」と表記されることもあります。100種類以上ある大麻草に含まれる生理活性成分カンナビノイドの一種で、いわゆるハイ状態を引き起こす向精神作用のある成分として知られています。
THCはマリファナの主成分として有名ですが、古くから痛みや吐き気、けいれんを抑制するなど様々な薬効があることでも知られ、重度のてんかん患者向けの薬や、脳や脊髄、視神経のあちらこちらに病巣ができる多発性硬化症(MS)の治療薬など医薬品にも利用されています。
しかし強い精神作用があるため、乱用するとアルコールを飲み過ぎた時と同じように認知感覚が歪み、集中力がなくなり、情緒が不安定になるといったデメリットもあります。
大麻にはTHCのような向精神作用がなく、医療や健康効果の高いカンナビノイドもたくさん含まれています。CBD(カンナビジオール)はその代表で、不安や不眠を緩和したり、体内の炎症を抑える効果があるほか、アルツハイマー病、パーキンソン病、抑うつ、抗がん、吐き気抑制、関節リウマチなど様々な症状に効果を発揮する可能性があると報告されています。大きな副作用はなく、WHO(世界保健機関)では2017年に「CBDは乱用や害を及ぼさない」という見解を発表しています。
ヨーロッパの大麻事情は?
ヨーロッパでは娯楽用大麻を合法化しているのは2022年現在マルタ共和国だけです。大麻に寛容というイメージのあるオランダも、犯罪として扱わないことにされているだけで、法律的には違法となっています。
医療用大麻が完全合法化となったスイスでも嗜好用大麻の合法化を検討していますが、ドイツはスイスに先駆けて解禁となる可能性が高いといわれます。
合法化への期待が集まる一方で、健康リスクや若者への影響、薬局で他の医薬品なと一緒に娯楽用大麻を扱うことへの反発の声が出ているほか、連邦政府の方針に異論を唱えている地方もあります。今回のドイツ法案の成立には欧州連合(EU)欧州委員会が事前審査し承認することが必要になるため、今後の展開に関するニュースが待ち望まれています。
まとめ
ドイツの依存症および薬物問題担当コミッショナーであるBurkhard Blienert氏は、娯楽用大麻が合法化されている米国カリフォルニア州を訪れ、大麻診療所を訪れたり法制度をリサーチするなど視察を行いました。
ドイツ政府は安全第一を守りつつ合法化のメリットを最大限にできる、バランスの取れた修正案を国民に提示することができるのでしょうか。
<参考資料>