イスラエルの企業が、パワーアップした大麻細胞のクローン培養に成功したニュースが報じられました。
大麻成分をカスタマイズできる驚きの技術
イスラエルのバイオテック企業が、最大12倍の効力を持つ大麻細胞クローンの培養に成功しました。これはクローン苗養成技術で同じ植物を生み出す園芸業界のクローンとは異なる、細胞レベルにおけるクローン技術で、クローン細胞は粉末状バイオマスの形で生成されます。
この技術を開発したバイオハーベスト社は、バイオリアクター(※)内の条件を調整することで植物の活性成分の効力を高める特許技術「Bio-Plant CELLicitation™ プラットフォーム技術」を開発したイスラエルのバイオテック企業。
生成されたクローン細胞には、CBD(カンナビジオール)やTHC(テトラヒドロカンナビノール)といった大麻成分として知られる主要なカンナビノイドのほかにも、多くのカンナビノイドが普通の大麻草より多く含まれていると発表されています。
※バイオリアクター=生体触媒を用いて生化学反応を行う装置
世界初のサステナブルなクローン技術
バイオファーミングと呼ばれるこの先端技術を用いると 93% のトライコームを持つ大麻細胞を培養することができるといいます。トライコームというのは大麻草に存在する毛状の突起を持つ重要な部位で、カンナビノイド、テルペン、フラボノイドなどの成分を生成し蓄積している部分で大麻草の花穂に集中しています。
バイオハーベスト社では2019年からこのバイオファーミング技術を大麻成分に応用し、大麻草を栽培することなくカンナビノイドを生産する世界初の技術の開発に取り組みました。
同社は2007年に設立され、赤ぶどうや赤ワインに含まれるポリフェノール複合体を細胞クローニングした商品をすでにイスラエルと米国で販売しています。赤ブドウには細胞の老化を防ぐレスベラトロールやアントシアニンなど、様々なポリフェノールが含有されており、これらの成分を強化したサプリメントVINIAは心血管の健康改善を目的にしています。
また農業なしで有用な植物成分を生産することができるという持続可能性の高さから、同社はビジネス・インテリジェンス・グループ主宰の「2022年サステナビリティ・リーダーシップ・アワード」を受賞しました。
クローン培養のメリットとは
このバイオファーミング技術は、成分の効力を高めるだけでなく生産にかかる時間も大幅に短縮することができます。大麻は成長が早い植物ですが、それでも収穫までに14〜23週間かかるのに対し、バイオファーミング技術ではそれを3週間に短縮することができます。
またCBDやTHC生産のために生まれる大麻廃棄物の量を最小限に減らすことができます。
サプリや嗜好品として使われている大麻の多くは、有効成分が多く含まれる花穂(バッズ)の収穫を目的に栽培されています。大麻草は根や茎、葉まで様々な用途に利用できるのですが、サプリ生産の現場では副産物として廃棄処分されていることもあります。必要な部分だけを細胞の形でクローンすることで、この無駄を大幅に減らすことできるのです。
そして農業を行わないことで栽培に必要となる水・電力・土地などの資源もカットできます。例えば屋内栽培と比較し、バイオファーミングでは使用する水 1 ガロンあたり 54 倍の大麻成分が生産できるとされています。そして天候による収穫量の上下、栽培に伴う農薬などの汚染リスクをゼロにできるなど様々なメリットがあります。
期待度高まる未来の大麻医療
大麻に含まれる総カンナビノイドを12倍、例えば3% から 36% まで増やすことができるようになると、大麻医療の可能性が大きく広がります。
現在最も人気の高いCBDは大麻に含まれる量が比較的高いため、痛みの管理や鎮静、不安神経症、睡眠障害、ADHDの治療、美容など様々な分野で使われています。
しかし含有量が少ないレアカンナビノイドは、生産量が低いため入手しにくくなったり高価になる傾向があります。
将来の医療利用が期待されているレアカンナビノイドのCBG(カンナビゲロール)、THCV (テトラヒドロカンナビバリン) や CBDV (カンナビジバリン)などの量をブーストすることができるようになると、より研究がしやすくなり商品化も容易になるでしょう。
<含有量が少ないレアカンナビノイドの一例>
CBG(カンナビゲロール)…向精神作用がなく、がんの進行を妨げる効果が示唆されている
THCV (テトラヒドロカンナビバリン) …食欲抑制や痙攣発作を抑える効果がある。向精神作用は低い。
CBN(カンナビノール)精神作用を及ぼすTHCから抽出されるカンナビノイド。鎮痛効果が期待されている。
まとめ
バイオハーベスト社は、副作用・依存症を引き起こさない医薬品開発を行うロイヤル エメラルド ファーマシューティカルズ 社と提携するなど、PTSD、疼痛管理、不安症などの治療薬開発を行う企業への素材提供やサポートを行っていきます。
研究と普及のために品質が安定した成分を得ることで、将来、従来医療では難しかった分野で新たな治療薬が生まれるかもしれません。
<参考資料>
バイオハーベスト社
https://bioharvest.com/