2021年に一部でブームになったものの、2022年3月17日薬機法で規制対象となった大麻由来成分HHC。耳慣れない名前ですが一体どんな物質なのでしょうか。また海外ではどのような扱いを受けているのでしょうか。
HHCはなぜ規制された?
日本厚生労働省は2022年3月17日より「HHC」として流通している物質を指定薬物として規制しました。今後は医療目的などの用途以外で、製造・販売・所持・購入・譲受・使用することが禁止され、輸入もすべて規制の対象となります。
このHHCとは「ヘキサヒドロカンナビノール(Hexahydrocannabinol)」の略で、大麻に含まれる精神作用を引き起こすTHC(テトラヒドロカンナビノール)の代替品として市場に流通しました。それまで規制を受けていなかったことから合法ドラッグとして使用され、一部でブームに。しかし話題になったことで問い合わせが相次いだ結果、規制対象になったと報じられています。つまり最近まで知る人ぞ知るというマイナーな存在だったために、これまで規制の是非が論じられてこなかった、法の抜け穴的存在になっていたということです。
合成で作られている場合がほとんど
合法大麻と呼ばれることもあるHHCは、大麻植物に含まれる天然の植物性カンナビノイドの1つです。大麻には天然の植物性カンナビノイドが100種類以上含まれていますが、中には医療や治療効果が認められるものがあり、世界各国で研究が進んでいます。よく知られているのは大麻喫煙の際に陶酔作用を引き起こすTHC(テトラヒドロカンナビノール)と、炎症緩和やリラックス効果があり医療効果も認められているCBD(カンナビジオール)です。
今回規制されたHHC(ヘキサヒドロカンナビノール)は自然の大麻草にはほんの微量しか含まれていないため、流通しているHHCはほとんどが化学的に合成された成分です。生成の過程でいくつもの化学物質が使用されているため、THCと似た性質を持っているというだけでなく、現状の製造状態では安全性が不確実であることも、規制対象になった一因であるといえるでしょう。
HHCは、1944年に科学者ロジャー・アダムズによって水素化プロセスを通じて最初に生成されました。HHCもよりメジャーなCBDやTHCと同様に不安や不眠を和らげ、炎症を軽減し、リラックスをもたらすことが知られていますが、THCと同様の精神作用・陶酔作用をもたらすことから使用が疑問視されてきました。また痛みや炎症の軽減、吐き気の緩和、睡眠の改善など、CBDに類似する効果があることもわかっています。
向精神作用の強度としてはTHCの約70-80%程度で、他の麻由来のカンナビノイドであるDelta-8およびDelta-10よりも強い効力を持っているとされています。適度な用量のHHCは、THCと同じような陶酔感のある精神作用、いわゆるハイ状態を引き起こしますが、よりリラックスした鎮静作用があると感じる人もいるようです。
マジックマッシュルームも同じようにして規制された
日本では90年代にマジックマッシュルーム(※)と呼ばれる毒キノコが若者の間で流行した後、規制対象になったという例があります。これは乾燥したマジックマッシュルームを繁華街などでハーブやポプリのような「観賞用」と称して売買されていたものです。しかし使用者の間でキノコの成分シロシビンが原因と疑われる幻覚症状やパニック状態を引き起こす例が報道され規制対象となりました。
これらのキノコは毒キノコの一種ですので体内に入ると中枢神経の興奮やまひ状態、幻覚や錯乱状態を引き起こします。ドラッグ的に使用されることが多いのですが、現在アメリカではこのキノコの成分シロシビンを有効利用することで、うつ病治療に大きな進歩が見られるという医療研究も行われています。
※マジックマッシュルームとは食べることで精神作用を引き起こす「サイロシビン(シロシビン)」「サイロシン(シロシン)」を含む、ミナミシビレタケ(シロシベ・クベンシス)やアイゾメヒカゲタケ(コーポランディア・キアネンシス)といったきのこの俗称で、世界に200種類以上存在するといわれています。
海外でもまだグレーな扱いのHHC
アメリカでもHHCは流通も少なくあまり認知されていないため、直接この物質を実際に規制する仕組みはありません。娯楽的に使用される可能性もある物質ですが、娯楽大麻自体の合法化が進んでいるアメリカでは、あまり手に入らないHHCをわざわざ使用するよりも、研究が進みブランドも豊富なTHCを利用した方が良いと考える人が多いようです。
米国ではTHC含有率が0.3%以下の大麻由来製品であれば娯楽大麻が非合法の州でも合法的に手軽に入手することができます。つまり、これらの製品にはすでにHHCが含まれていることが多いのです。
また大麻が違法とされている英国ではHHCも規制対象ですが、同じくグレーゾーンの扱いです。HHCは視覚を改善する効果があるという研究報告もあるのですが、データがまだ少なく、医療利用されるには至っていないのが現状です。
情報はつねにアップデートしよう
ブームの最中で規制対象となったHHC。今後はHHCが配合されたリキッドなどを購入したり、所持したりすることは違法となります。今手元にある、または誰かからもらった、という場合も全て規制の対象となります。またHHCに混ぜ物をして、別のリキッドのようにして発売される可能性もあります。
悪徳業者に騙され、うっかり法に触れてしまうことがないようにするのはもちろんのこと、本当はどんな物質なのか、プラスもマイナス面も含め、情報をアップデートしておくことが大切です。
参考資料