古くから広く難民や亡命者を受け入れてきた歴史のある英国。イングランド中部にあるヘンペン協同組合では、難民のための独立支援サポート機関してヘンプファームを運営しています。
傷ついた難民たちのサンクチュアリ
難民支援グループによって運営される英国サウスオックスフォードシャーのヘンプ農園「ヘンペン」。ここでは難民が寄付ベースの生活を徐々に抜け出して地元コミュニティに参加し、自立して持続可能な生活を送っていくためのサポート活動が行われています。
英国に到着した難民の多くが、祖国での戦乱や迫害を逃れ様々なトラウマを抱えています。彼らに農園スペースを提供することで、自然と触れ合い心の傷を癒す時間を与え、地元コミュニティとの交流を通して新天地での社会参加を促します。
ヘンペンの共同体へのアウトリーチを行う慈善団体グローイング・ソリダリティ(「連帯を育てる」の意)では、毎週ファームで定期的にイベントを開催し、難民たちが地域住民と出会う機会を提供しています。また農園で基本的な食料を自給自足するためのワークショップも行われています。
レディング市議ロレーヌ・ブリフィットは、この農園を「難民のサンクチュアリ(聖域)」と名付けました。そしてこの農園では産業用ヘンプを利用したCBDオイルやヘンプシードオイル、ヘンプを使ったレシピ本などを販売し、運営資金を得るためのビジネス活動も行われています。
ヘンプ農園からウェルネス事業へ
ヘンペン(Hempen)は、さまざまなヘンプおよびCBD製品を生産する生活共同組合として運営されており、産業用ヘンプ栽培の規制緩和後、英国で最初に認定を受けたオーガニック・ヘンプファームの1つでした。しかし残念ながら運営開始後から3年後にヘンプ栽培のライセンスを失い、現在ライセンス復活のための活動を続けながら、近隣のオーガニック・ヘンプ農家と協力してヘンプの栽培を行い、これらを原料とした食品やコスメ、ウェルネス製品を製造・販売しています。
また毎週、ヘンペンで栽培したさまざまな野菜やハーブを地元グループに提供することで、社会貢献を行っています。お互いのスキルや知識を交換することで社会的に孤立せず、新たなコミュニティで快適に暮らして行くことができるようになっているのです。
英国では近年、東欧や中東、アフリカなどからの難民が増えています。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の統計によると、英国では2020年末時点で13万2,349人の難民、77,245人の亡命者、4662人の無国籍者がいると発表されています。2021年の亡命申請数は過去20年間で最高値を記録しました。これらの難民の中には、小型ボートにすし詰めになった状態で、飲まず食わずの衰弱状態で救出される人々も多いのです。
ヘンプ栽培はライセンス制だが…
英国では大麻=ヘンプの栽培は1928年以来長らく禁止されていましたが、近年の規制緩和により、政府の許可さえあればライセンスを取得し、産業用大麻を農作物として生産することができるようになっています。
産業用大麻は一年生植物で、高さは1〜3mかほどの高さに成長します。北半球では大麻は3月から5月の間に植えられ約3〜4か月後の夏の終わりまでに収穫されることが多く、輪作と組み合わせることも可能です。またヘンプは英国の冷涼な気候でもよく育ちます。また丈夫な植物のため農薬や肥料をあまり使わなくても丈夫に育つため、土壌を汚染する恐れがありません。
大麻の生産にはまず内務省にライセンスを申請し、犯罪歴がないことを証明するチェックを受けます。しかし、このライセンス申請では土地の所有者ではなく栽培者の名前で発行されることになっています。これが、ヘンペン難民ファームが現在ライセンスを失った主な理由になっているようです。
建材からサプリまでマルチに活躍するヘンプ
英国ではヘンプを原料にしたウェルネス製品や住宅用のエコ建材が人気となっていますが、サステナブルで栄養価の高いヘンプ種子(=ヘンプシード)も人気です。ピザやクラッカーの生地に使われ、環境ガス排出量が少ない地球に優しい代替ミルクとして、ヘンプシードを使ったヘンプミルクの新ブランドが何社も登場するなど、さらにメインストリーム化が進んでいます。
まとめ
ヘンペンでの栽培ライセンスが正式に復活し、難民サポートの1つとしてヘンプ農家の道が再び開かれることを願いたいものです。
ヘンプはかつて英国で栽培される一般的な作物の1つでした。16世紀のヘンリー8世の時代には、農民は土地の一部を大麻栽培に使用することが義務付けられて、収穫した麻は日用品や海軍向けの帆や、ロープの製造などに使われました。綿よりも強く、成長が早いのも栽培が奨励された大きな理由です。
現代ではCO2を捕捉するスーパー作物として衣類、飲料、コスメ、建築建材など、さまざまな分野で利用されています。ヘンペンの活動意義やヘンプ栽培の大切さが広まることで新たな職を提供し、様々な理由で生活に苦しむ人を救うことができるのかもしれません。
<参考資料>