古くから衣服の材料に使われてきた麻。現在では産業用大麻=ヘンプの人気に伴い、素材としてだけの利用にとどまらず、人気の大麻ブランドとコラボするファッションブランドが増えています。
老舗ファッションブランドが若返り
アメリカでは大麻の合法化が拡大する中、これまでの犯罪イメージが薄れファッショナブルなイメージを持つ人が増えています。また麻薬依存や犯罪のイメージのある「マリファナ」や「ガンジャ」から、よりニュートラルな印象のある呼び方「カンナビス」や「ヘンプ」が定着しつつあります。
2020年にはイタリアの高級アパレルメーカー、ミッソーニ(M Missoni)が米国LAの大麻ブランドのピュアビューティ(Pure Beauty)と提携し、このブランドらしいセンスよくカラフルなパッケージデザインの大麻タバコがカルフォルニアで限定販売されたことが話題となりました。カリフォルニア州では2018年より嗜好用大麻が解禁されており、コロラド州と同じく大麻ビジネスが盛んな州の一つです。
過去にもファッションブランドと大麻ブランドのコラボはありましたが、高級ファッションとのコラボはこれが初めて。大麻のもつ新しいイメージで老舗ブランドの若返りを図るという意図も見え、大麻のメインストリーム化の一端を覗くことができます。
ファッションに使われるのはどんな麻?
麻は中央アジア原産とされているアサ科アサ属の一年草で、世界最古の文明といわれる古代メソポタミア時代に(紀元前8000年頃)すでに栽培が始まっていました。また古代エジプト文明でさらに広く利用されるようになりました。
現在、世界中で様々な種類の麻が栽培されていますが、衣服によく使われるのは「リネン
(亜麻/アマ)」や「ラミー(苧麻/チョマ)」と呼ばれる種類で、優れた通気性と肌触りの良さで定評があります。またロープや食品を入れる麻袋には丈夫なジュートやマニラ麻が使われます。大麻も同様にロープや輸送用の袋、紙の原料などになり、日本では神社のしめ縄にも使われてきました。綿花栽培が普及したことで大麻が衣料品に使われる機会はどんどん減ってしまいましたが、繊維技術が進化したことで硬めの感触がある大麻(ヘンプ)をより柔らかい肌触りに加工できるようになり、ファッション素材としてもリバイバルしています。
現在広く栽培されている産業用大麻=インダストリアル・ヘンプは、麻薬成分として懸念される成分THC(テトラヒドロカンナビノール)をほとんど含まない種類の大麻です。コットンと違い栽培の際に大量の農薬や水を必要としないため環境や農業従事者の健康を脅かすことが少なく、サステナブルな作物として注目を集めています。また茎からとれる大麻繊維は生分解性のプラスチックやエコ建材に加工されるなど、石油製品の代替素材としても注目を浴びています。
加速する異業種コラボレーション
大麻とハイファッションはすぐに結びつかないかもしれませんが、それだけに話題性も高いものです。海外では前述のミッソーニのほかにも様々なブランドが米国の大麻企業とコラボするなど、独自ブランドをローンチしています。
例えばビンテージスタイルに現代的にアレンジしたお洒落バッグで知られるエディーパーカー(EDIE PARKER)では、フルーツ型などポップなデザインの高級大麻喫煙グッズ「フラワーbyエディーパーカー」コレクションを発表しました。大麻入れやライターに喫煙パイプ、ネックレスなどが揃っています。
ニューヨークを拠点とするファッションスタジオ「サンデースクール(Sundae School)」は、ジュエリーとアクセサリーのブランドFlanと提携して、大麻に着想を得たジュエリーとアパレルを発表しました。男女差にとらわれないジェンダーニュートラルなビジュアル戦略がZ世代の心を掴んでいます。
また前述のピュアビューティは2022年、英国ロンドンのブランドAriesともコラボを実現しました。ファッショナブルな大麻タバコ(カリフォルニア限定)やロンドンのストリート感あふれるファッションラインを発表しています。
大麻と大麻グッズブランド「Fourtwenty Collections」のCEO兼創設者であるマーヴィナ・トーマスとニューヨークのファッションデザイナーのコルト・モモルは2021年、米アリゾナ州テンペで開催される「Queen of the Nile(ナイルの女王)」ファッションショーで、女性向けの新しい大麻ファッションラインを発表しました。
収益の一部は医療大麻の普及と教育、そしてアルコール依存やオピオイド製剤中毒に苦しむ人たちをサポートする非営利団体Start Living Recoveryに送られます。
日本でもファッションデザイナー三原康弘氏のディレクションで、若手クリエーター集団による新ライン「ネハン」が誕生しています。縄文の昔から日本人の生活に関わりの深い大麻布を主役にした、着物を思わせるデザインや和テイストを打ち出した絵柄が特徴です。
NYコレクションの常連で、都会的で上品なストリート感で人気のNYブランド「アレキサンダー・ワン」も、2016年秋冬コレクションでいち早く大麻をモチーフにしたコレクションを発表しています。世界4大ファッションショーの舞台として知られ、2021年より嗜好用大麻が解禁されたニューヨーク州では、これから大麻ブランドとファッションのコラボがさらに増えていくのかもしれません。
まとめ
古来より大麻は神事に使われ、創作のインスピレーションとしての役割も努めてきました。暑さ寒さをしのぐだけでなく、美意識の表現の役割も担うのがファッション。ヘンプとの相性は抜群と言えるでしょう。ファッションと音楽業界がコラボするような感覚で、刺激的でクール、そして自由なイメージが今後ファッション界に新風を吹きこんでいくのかもしれません。
<参考資料>
https://www.limcollege.edu/blog/8-fashion-and-cannabis-collabs-know-about