世界的パンデミック期にファンを増やしたヘンプ製品。消費者はどのような商品に関心を持っているのでしょうか。
健康意識の高まりが追い風に
新型コロナウィルスの世界的流行で大きな打撃を受けた小売業界。一方、巣ごもり消費で急成長したカテゴリーも多くみられます。オンライン会議ができるzoomなどに代表される通信IT系業界やゲーム業界、映像配信サービスなどが代表的な例です。
人々の健康意識の高まりを受けてウェルネス市場も拡大しました。必要なビタミンやミネラル類を補給して、プロバイオティクスなど腸内環境を整えて免疫力を向上させるサプリメントなどが人気になりました。
リモートワークや外出自粛などライフスタイルの変化から不安やストレス、不眠を抱える人も増え、メンタルケアにも注目が集まり肉体と精神面の両方に効果をもたらすヘンプ由来成分CBD(カンナビジオール)に興味を持つ人も増えました。
市場調査グランドビューリサーチによると、世界のカンナビジオールの市場規模は2020年において28億米ドル。2021年から2028年にかけて21.2%の複合年間成長率(CAGR)で拡大すると予想しています。「健康のためのCBD」の需要は非常に高く、市場成長を牽引する最大の要因となっているのです。
安全かつ効果的なサプリメント
ウェルネス成分として脚光を浴びているCBDとは「カンナビジオール」の略で、大麻草に数多く含まれる薬理成分カンナビノイドの一つ。近年では食品から医薬品まで様々な分野で利用されています。
大麻草には精神を高揚させることで知られるTHC(テトラヒドロカンナビノール)のほかにも様々な成分が含まれており、前述のCBD(カンナビジオール)そしてCBN(カンナビノール)のように、体内の不調や病気を引き起こす炎症を鎮める効果を持った成分があります。
中でもCBDは様々な可能性を秘めており、副作用のリスクや中毒性もないため健康成分として最も注目が高まっています。植物由来である点も化学薬品の服作用を敬遠し、よりナチュラルなサプリメントを求める層にとって魅力的なファクターなのです。
CBDの持つ主なおもな効果は「炎症や炎症による痛みの緩和」「不安・不眠の改善」そして「リラックス効果」の3つ。
ほかにも
てんかんの症状
炎症性腸症候群(IBS)などの炎症性疾
がん治療による吐き気や食欲不振の解消
などにも効果があることが分かっています。
症状によりその効果は異なりますが、精神疾患の一部やストレス状態の改善にも役立つとされ、欧米を中心に現在、医療用大麻だけでなく嗜好用大麻に関しても合法化の方向へと進んでいるのです。
大麻というと喫煙しハイな気分を楽しむレクリエーショナル・ドラッグのイメージを持つ人もまだ多いのですが、実際には健康のため大麻由来成分を使ったサプリやコスメを利用する層が最も増えているよう。
また2020年に世界を襲ったコロナ禍では、不安、不眠解消のためにCBDを利用する人が急増し米国のカンナビノイド市場調査会社BDSA(在コロラド)によると、世界の大麻の売上高は2020年に約213億ドルに達し、2019年の売上高144億ドルから48%増加したといいます。
こんなにあるヘンプ商品
ヘンプからはCBDなどの薬理成分のほかに、繊維やオイルなどを作り出すことができます。
現在生産されているヘンプ商品の例を以下に挙げてみましょう。
サプリ系
CBDオイル、ドリンク
食品
ヘンプシード、ヘンプエナジーバー、プロテインパウダー、オイル、コスメ、ペット用品、めがねや時計、ファッション、ハンバーガー用の植物性ミートやソーセージ、ヘンプバターやチーズ、ヘンプ成分を配合した酒類、朝食用グラノーラ、コーヒー、チョコレートなどの菓子類
ファッション
シャツやジーンズ、時計、サングラス、靴、フェイクファー など
工業製品
自転車やバイクなどの乗り物、建築材、コンクリート、プラスチック、家具、ロープ類、印刷インク、高性能バッテリー
その他
生分解性カトラリー、食品ラップ、マッサージオイル、ペット用品、家畜飼料、バイオ燃料、文房具、紙など
このようにヘンプは私たちが知っている以上に広範囲で利用されているのが分かります。
食に取り入れ環境問題に取り組む
健康やダイエットのため、そして気候変動問題に取り組むためにプラントベース(=ヴィーガン)食への関心が高まったのも、ヘンプ人気の要因の1つです。
カーボンフットプリント(※)削減を目指し、欧米では動物性製品を使用しないヴィーガン実践者が着実に増えています。特にこれからの時代を担うことになる若い世代は、気候変動問題などの環境トピックに敏感で、ヴィーガン生活と環境保護をセットで考える人が大多数です。
これは肉や乳製品などの動物性製品は植物性の商品と比較し温室効果ガス排出量が非常に高いため。このため大豆やヘンプシードなどを使った代替肉、アレルギーの心配が少ないオーツ麦やヘンプシードを使った植物性ミルクが増え、欧米のスーパーではプラントベース食のコーナーが年々拡大しています。
食用にもなるヘンプの種=ヘンプシードは、雑穀として食べたり、加工することで植物性ミルクやバターを作ったりすることもできます。良質のタンパク質が豊富で、人の体の中では作ることができない必須脂肪酸「リノール酸(オメガ6)」と「α-リノレン酸(オメガ3)」をバランスよく含んでおり、アレルギーやGMO(遺伝子組み換え作物)などの問題がないのも安心です。
漢方薬の世界ではヘンプシードは「麻子仁(ましにん)」と呼ばれ、緩下薬・整腸薬としても用いられます。
(※)カーボンフットプリント
全ての商品やサービスは、生産や輸送、廃棄のプロセスに石油や天然ガスなどのエネルギーを使い、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを大気中に排出します。「カーボンフットプリント」は、商品・サービスのライフサイクルの過程で排出された温室効果ガスの量をCO2量に換算して表示したものを指します。
21世紀のスーパー作物ヘンプ
ヘンプは生育過程で大気中の二酸化炭素を吸収してくれる点でも、肉や乳製品よりも環境に優しくサステナブル。成長スピードが非常に早く、水や農薬を大量に必要とせず、硬い土壌にもしっかりと根を張り土壌を豊かにするといったメリットがあります。
約100日で収穫が可能になるため、気候によっては1年に2・3度収穫ができ、耕地面積で比較すること森林の数倍の二酸化炭素を吸収することもわかっています。
また成長したヘンプは
葉や花穂から薬理成分を抽出し、医薬品やサプリに利用できる
茎からとれる繊維は環境被害が少なく断熱性や耐久性に優れた麻製コンクリートや建材パネルの原料になる
繊維を使って衣服を作ることができる
繊維を使って産業用プラスチックを作ることができる
収穫後の根が肥料になり土壌を豊かにする
種を食用にする・飼料にする
など広く活用することができるのです。
まとめ
健康メリットが高く環境ガス排出を減らすことができるヘンプ。排出量取引など二酸化炭素(CO2)の排出量に応じて課金する制度の導入が増えているため、事業存続のためにもCO2削減は企業にとって重要な課題になります。
古くから人類と共にあった大麻草=ヘンプが、科学の発達によってサステナブルで健康的という新しいイメージで復活しました。各国で品質規格化も進んでおり、ヘンプ製品の利用はますます身近になっていきそうです。
参考資料
世界のカンナビジオールの市場規模
https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/cannabidiol-cbd-market
82 Real Life Amazing Hemp Products To Try Today
https://ministryofhemp.com/blog/hemp-products-list/