麻には様々な使い道がありますが、楽器も作ることができます。今回は米国を中心に製造されているヘンプ楽器についてご紹介します。
ヘンプはいろいろ作れる便利な作物
大麻は古くはロープや衣類、紙の材料や神事に使われてきました。科学技術の進んだ現代では麻の繊維を建築材料やプラスチックに加工するほか、化粧品や医薬品、サプリメントなどを作るなど数え切れないほどの使い道があります。このため海外では大麻ブームが起こりインダストリアル・ヘンプ(産業用大麻)と呼ばれる安全性の高い品種の栽培が増えています。
不思議な効果があることが知られ薬草や嗜好用にも使われていた大麻ですが、研究が進むにつれ人間や動物の健康に役立つ麻由来の成分カンナビジオール(CBD)を抽出することができるようになり、近年はウェルネス・サプリとしても人気です。海外で大麻の規制緩和や品種管理が進んだことに加え、CBDに不安やストレス緩和、安眠効果が期待できることが知られるようになり、嗜好用の大麻と共にパンデミック時に売り上げが急増したというデータもあります。
音楽✖️ヘンプのプロが生み出したギター
このように万能選手の大麻ですが、今まで考えつかなかったようなモノ作りにも応用できるといいます。音楽ビジネス界でプロモーター、プロデューサーとして25年間活躍してきたモリス・ビーグル氏は、麻でできたエレクトリックギターを開発しました。
ビーグル氏は全米に先駆けて娯楽用大麻を合法化したコロラド州で毎年開催される、世界最大のヘンプ見本市である「NoCo ヘンプ・エキスポ」のプロデューサーとしても知られています。彼はこのヘンプへの情熱と音楽業界での経験を掛け合わせ、ヘンプを材料にしたギター・ブランド「シルバーマウンテン・ヘンプギター(Silver Mountain Hemp Guitars)」を設立しました。雄大なロッキー山脈の麓に位置するコロラド州の銀色に輝く雪をたたえた山(シルバーマウンテン)がブランドロゴとしてあしらわれています。
エコも音も、妥協しない
このギターは50〜60年代からインスピレーションを得たギター通をうならせるクラシックなスタイルが特徴で、ギターのほかにもウクレレ、スピーカーのキャビネット、ギターストラップ、ギターピック、ボリュームノブ、その他のアクセサリーを提供しており、全てヘンプを使用しています。
ギターは弦の振動が木製のボディと共鳴し、美しい音色を生み出します。ギターのほかにもバイオリンやピアノなど木で作られる楽器は多く、楽器のデザインとともにボディの品質も音色に大きく関わってきます。
弦楽器製作者によって一つずつ手作りされたシルバーマウンテン社のギターは、環境に優しく音にも妥協のない仕上がり。音楽業界のプロのこだわりが伝わってくる、環境にも配慮したユニークなギターとして各メディアにも取り上げられています。同社のウェブサイト上ではこのギターの演奏を聴くこともできます。
ヘンプの特性
楽器に使われるのはヘンプの靭皮(じんぴ)と呼ばれる強度の高い繊維です。スピーカーのキャビネットなどにはヘンプ繊維をプレスしたボードが使用されます。木材の代わりに麻を材料にすることで森林破壊を減らし、楽器製造に使用される絶滅危惧種の木材を守ることができるのです。
また成長過程で大量の水や農薬を必要としない大麻は、土壌や農園で働く人たちに害を及ぼしにくいことでも産業作物としても注目を集めています。加えて、木は植えてから木材に使えるサイズに成長するまで何年もかかりますが、成長スピードの速い麻は3ヶ月ほどで収穫が可能。環境への負荷が少なく、生産にかかるエネルギーや時間が大幅に減らすことができる産業用大麻は非常にサステナブルな作物だとされているのです。
旅人向けのコンパクト・サイズも
ヘンプ製の楽器を製造しているのはビーグル氏だけではありません。バーモント州ランドルフに本拠を置く「バグアウト・ギター」は、旅行者向けの麻を使ったトラベルサイズのギターを製造しています。トラベラー向けの高品質な「アドベンチャー」ギター&ウクレレを謳うだけあり、温度や湿度の変化の影響を受けない丈夫な作りがポイントで、水に飛び込んでも大丈夫とのこと。飛行機の頭上コンパートメントに収まるコンパクトなサイズで、麻の繊維が見えるナチュラルな風合いのボディが旅心をかきたてます。
弦楽器のほかにもサックスやクラリネット演奏用のファイバーリードを製造するメーカー「ハリー・ハートマン」では、環境に優しい麻のリードを製造しています。麻のリードは自然な音と高音域の美しさ、そして耐久性があるのが特徴です。マリンバやビブラフォン用には、白樺と麻で作られたキーボードマレットが製造されています。楽器の周辺アクセサリーに麻繊維を使うメーカーも増え、麻繊維で包んだギターケーブルや楽器を運ぶためのキャリーケースなども手に入るようになりました。
オーストラリアでは90年代に「ヘンプストーン」と呼ばれるヘンプ繊維と水だけで作られた有機素材が特許を取得し、オーストラリア大陸の先住民アボリジニの金管楽器ディジリドゥや西アフリカ発祥の打楽器ジャンベなどが作られています。
ヘンプ楽器で環境と音楽を愛でる
プロのミュージシャンも注目のヘンプ楽器。もともとロックやヒップホップ、レゲエ音楽など大麻カルチャーと音楽は切っても切れない関係です。強度やエコ度だけでなく音質にもこだわったヘンプ製楽器は音楽と自然環境保護の橋渡しになる、メッセージ性の高いアイテムといえるでしょう。水力や太陽光などの自然エネルギーを使った野外フェスティバルやコンサートも行われており、エコと音楽、そしてヘンプは親和性がとても高そうです。
<参考資料>
Silver Mountain Hemp Guitars
https://silvermountainhemp.com/
バグアウト・ギター
http://www.bugoutguitars.com/
ハリー・ハートマン
https://fiberreed.de/en/