アパレル界で近年注目を浴びているヘンプ素材。化学繊維と比べて環境に優しいのが特徴です。現在は服だけでなく、機能性の高いヘンプ製のエコ・スニーカーも登場しています。
ヘンプが注目される理由
人類と長いつき合いのある作物・麻。その中でもリネンと呼ばれる素材は衣服の素材として古くから親しまれてきました。日本語では亜麻布とも呼ばれるリネン素材は、肌触りや独特の素材感、吸湿性の高さなどから、寝具からスーツまで様々な用途に使われています。コットンよりも高級感のある夏素材として、リネンのスーツやワンピース、ジャケットなどを手にした方もいるのではないでしょうか。
そして現在、同じ麻素材の中で注目を集めているのが同じ麻科の作物ヘンプです。大麻草を指す言葉ですが、麻薬成分として規制を受けることの多い成分THC(テトラヒドロカンナビノール)をほぼ含まない品種である「産業用ヘンプ」が注目され、海外では生産農家も増えています。
なぜヘンプが注目されているのか。その理由は3つあります。
①環境に優しくオーガニック
②無駄がない
③石油化学製品の代用になる
<①環境に優しくオーガニック>
ヘンプはコットンのように大量の水や農薬を使わなくても丈夫でよく育つため、土壌を汚染することがなく、水不足をひき起こしません。成長が早いため年に2〜3回収穫ができ、3メートルもの高さに成長するため、土地面積あたりの収穫量が高いという利点があります。
<②無駄がない>
根や葉、茎や花穂まで全てを有効利用できるのが麻の素晴らしいところ。硬い土壌にもしっかり根を張って土壌を改善し、茎は繊維として衣服や産業用品に使うことができ、葉や花穂などから医薬品やサプリに役立つ健康成分を抽出することができます。また種子は栄養価の高いタンパク源として食用になり、油を絞ってバイオ燃料を生産することもできるという万能選手です。
<③石油化学製品の代用になる>
石油由来の化学繊維やプラスチックは、分解されて土に還るまでに何百年・何千年もかかるといわれます。粉砕され細かくなっても微生物によって生分解されるわけではないので、ほぼ永遠に環境に悪影響を与え続けるのです。一方の麻繊維は加工方法によっては車のボディになるほど丈夫でありながら天然素材なので生分解が高く、破棄された場合も環境へのダメージが少ないという特性があります。
このように様々なメリットを持つ産業用ヘンプ。脱プラスチック・脱石油が進む現代社会に、なくてはならない代替素材となってきているのです。
進化したヘンプ素材はエコ&ファッション・フレンドリー
古くからのリネン素材に加えて、ジーンズやシャツなどにヘンプ繊維が使われるようになっています。「ヘンプ生地はゴワゴワしている」という印象がありましたが、それは過去のこと。技術の進歩や混紡によって着心地は格段に進歩していて、ヘンプを使った植物性のフェイクファーなど様々な新素材が誕生しています。
また世界的にエコ意識が高まるにつれ、様々なアパレルブランドがサスティナブルを意識し、石油製品(=化繊やプラスチック)や動物性素材を使わないことがファッションブランドのステータスシンボルになりつつあります。
麻ももちろんサスティナブル素材の一つ。リーバイスのようなカジュアル・ブランドからバレンチノと言った高級ブランドまで、ヘンプ素材を用いたアイテムが続々登場しているのです。
クラウドファンディングで誕生したヘンプ・スニーカー
靴メーカーももちろんヘンプに注目しています。
例えば話題のクラウドファンディングで注目を集め、合計6,200万円以上の資金調達に成功した「8000Kicks 」はエコ志向の強いポルトガルのシューズブランド。
ドープ・キックス(Dope Kicks)という名前でスタートしたこのメーカーは、持続可能なライフスタイルの実現を目指しているサスティナブル志向の企業で、2021年に入り「8000Kicks 」と名称を変えて、よりファッショナブルに生まれ変わりました。このネーミングは麻織物が登場したとされる、紀元前8000年に敬意を表してつけられたそうです。
初のモデルとなった「エクスプローラー」は、ヘンプ繊維の持つ通気性と撥水性、耐久性をフルにアッパーに生かし、ソールはリサイクル素材を利用。中敷きも快適なヘンプ素材を使ってで、スニーカーらしい機能性と環境保護の両方にこだわっています。水を弾き土ほこりなどがつきにくいのも特長。天然素材ならではの自然なテクスチャーや上品な色使いも魅力的です。
ナイキの麻製コラボスニーカーはナチュラル✖️アーバン
スポーツブランド大手のナイキと、英国ブランド「Size?」がコラボしたスニーカー、エアズーム「ヘンプ」も、人気ブランドの限定アイテムとしてファッションピープルの間で話題となりました。ナイキの実験的レーベル「N.354シリーズ」としてのリリースで、前足部にあるサイドに少し飛び出したZoom Airポッドが特徴的。実験的なスタイルがスニーカーファンの注目を集めています。こちらもアッパー部分にヘンプを使用し、ソールはコルク製、デザインは日本のミニマル・ファッションにインスピレーションを受けています。シリーズの1つ「Toyo」タイプには日本語の書体が散りばめられています。伝統的な麻素材と最新のテクノロジー、そしてロンドンらしいアーバン・デザインが融合したコレクターズ・アイテムです。
ファッションとエコは両立できる
スニーカーは機能性を重視していることから化学素材が多用され、決してサスティナブルとはいえない製品が多かったのですが、環境意識の高まりなどにつれ、リサイクル素材を利用したり天然素材を導入したりと進化が進んでいます。またサスティナブルなだけでなくファッション性を意識したシューズも増え、海洋ゴミとなっていたペットボトルをポリエステル繊維に再利用したシューズも登場しています。
技術の進歩と人々の意識の高まりによって、ファッションとエコが両立できるようになった現在。これらのシューズを手にするとき、自然保護活動やチャリティに参加しなくても、自分の消費・ワードローブ選びが、そのまま自然環境につながっていることを改めて気づかせてくれます。
どうせ選ぶなら、良い品質のものを。そして少しでも環境への負担が軽いものを。エコ製品の選択肢が増えていくことで、環境問題に様々な世代の関心を集めることができそうです。
参考資料
https://www.8000kicks.com/?fbclid=IwAR2DrKKnOs5RglfbIygaMlSd97y6rw3fhfFtJY4qSfumPgS_TV6rMXvJPH4
https://thesolesupplier.co.uk/release-dates/nike/air-zoom/nike-air-zoom-type-hemp-size-exclusive/
https://hypebeast.com/2020/8/size-nike-air-zoom-type-hemp-official-release-date-info