【アジア初】医療大麻合法化をめぐるタイの動き  


はじめに

タイでは2019年、東南アジアで初めて医療・研究目的の大麻の使用が合法化されました。2020年には、医療用大麻の栽培・使用に関連する法改正を政府が承認、年内に施行と観測されています。タイ社会における大麻の位置づけや、これまで規制されてきた経緯、医療大麻解禁をめぐる最近の動きを紹介します。

「黄金の三角地帯」の一角にあるタイと麻薬問題

タイの北部、ラオスやミャンマーと国境を接する辺りには、「黄金の三角地帯」(ゴールデン・トライアングル)*1とよばれる地域があります。かつてはケシ畑が広がっていた場所で、世界最大規模の麻薬の生産地でもありました。

黄金の三角地帯 *2

文献によると、タイ北部でケシ栽培が始まったのは19世紀初め。地元の人びとのあいだでは、疲れが取れるということであへんを吸う習慣があり、1958年にあへん禁止令が出て以降も、ケシや大麻は、この地域に住む山地民(タイ北部から北西部にかけての山間部(一部平地)に居住する非タイ系の少数民族*3)と、山間部に潜む反政府武装組織の収入源になっていました。

タイ国内で本格的に麻薬が取り締まられるようになったのは、麻薬統制法(1976年)、麻薬法(1979年)などが成立して以降です。1980年代に入ると、国連やアメリカの援助により取り締まりは強化され、「黄金の三角地帯」のタイ領内での麻薬生産は下火になります。*4

一方で、覚醒剤など合成麻薬の汚染は広がっており、2003年には当時のタクシン政権下で「麻薬との戦争」が宣言され、密売組織の大規模な摘発が行われました。

タイにおける麻薬については、山地民を中心にあへんを吸引する習慣があったこと、「黄金の三角地帯」という供給源を抱えていることを理解しておく必要があります。

タイ伝統医療における大麻草

タイには、王宮を中心に、王族の治療や健康管理にあたってきた人びとが知識や技術を蓄積してきた伝統医療があります。

「アユタヤ王朝以降の宮廷には、モー・ヌワット(マッサージ師)を含むモー・ルアン(宮廷医)と呼ばれる人々がおり、王族の治療を行ってきた。歴代の宮廷医たちは医学テキストを繰り返し編纂しているが、中でも、ラーマ三世の命により、一八三二年にバンコクの王立寺院ワット・ポーで保存された知識は広範囲に及んでいる」*5

一般に知られているタイ・マッサージは、治療や体調の維持を目的に行われてきた手技が普及したもので、いくつか違った系統があります。19世紀後半に西洋医学が医学の中心にすえられる以前は、こうした手技や生薬を使った治療が伝統的に行われてきました。大麻草も、薬効のあるハーブのひとつとして使われていたのです。

「タイでは昔から伝統医療で、痛みや疲れを和らげるものとして大麻が使用されてきた歴史がある。そのためタイ国民の中で、大麻使用の抵抗感は意外なほど少ない。」*6

東南アジアで初めての医療大麻合法化

2018年12月、タイ議会は前述の麻薬法を改正し、医療・研究目的での大麻使用を認めました。*7

2020年1月には初の医療大麻専門クリニックが首都バンコクに開業し、開業式には保健大臣も出席して、国内外で報道されました。

☆動画 2020年1月にバンコクに開業した、初の専門クリニックの様子
https://www.afpbb.com/articles/-/3262482?cx_part=search

「クリニックでは高齢者を中心に、多くの患者が5〜10ミリグラムサイズの小びんに入った筋肉痛用オイルを受け取るため待機する姿が見られ、中には重篤な症状の人もいた。」*8

タイ政府はさらにクリニックを増やす方針を明らかにしていて、診察の予約ができる携帯電話用アプリ「Dr Ganja in TTM」(「ガンジャ」はタイ語で大麻のこと)を公開しています。*10

携帯電話アプリ「Dr Ganja in TTM」*9

医療大麻解禁後の活発な展開

タイ保健省の伝統タイ医療・代替医療局は2020年7月、医療大麻を用いた治療が可能な、152の地域の拠点病院を発表しました。同局によれば、およそ6万人が全国の公立病院での治療を望んでいると見込まれています。*11

翌8月には、タイ政府は保健省のまとめた麻薬法の改正骨子を承認しました。現行法では、政府機関とその許可を受けた企業・団体だけが医療大麻の栽培や医薬品の製造・輸出入を許可されていて、民間の医師や治療者には許されていません。*12

年内にも法改正が実現すれば、許可を受けた患者や医療従事者、伝統医療の治療者が医療目的の大麻の栽培や、大麻成分を含む医薬品の製造、輸出入にも道を開くことになります。

まとめ

他の東南アジア諸国に先んじて、医療目的での大麻が使えるようになったことにより、タイは大麻成分を含む医薬品やCBDオイルなどの製造・販売にも有利な立ち位置にあります。政府が進めているタイ式伝統医療も、一層の活性化が見込まれています。タイは観光誘致や医療ツーリズムにも力を入れているだけに、医療大麻解禁は、新たな市場を開拓するかもしれません。

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 情報引用元(参考文献、URL、URKページ タイトル記載) 

*1 「ゴールデン・トライアングル」知恵蔵mini
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AB-190171

*2 地図 黄金の三角地帯 出所Crop/edit: UploaderOriginal: See template below. – ファイル:WorldMap ja.pngOriginal data: UNEP GRID data GNV19, CC 表示-継承 3.0, https://ja.wikipedia.org/w/index.php?curid=246149による
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%84%E9%87%91%E3%81%AE%E4%B8%89%E8%A7%92%E5%9C%B0%E5%B8%AF#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Golden_Triangle.png
*3 「『後住』少数民族としての山地民」、綾部恒雄・林行夫編著『エリア・スタディーズ タイを知るための60章』明石書店、2003年。

*4 「研究部報告27 アジア地域における薬物乱用の動向と効果的な薬物乱用者処遇対策に関する調査研究」法務省、2005年。
http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00024.html

*5 「タイの伝統医療と古式マッサージ」、綾部恒雄・林行夫編著『エリア・スタディーズ タイを知るための60章』明石書店、2003年。

*6 「医療大麻」解禁のタイでクリニックに患者殺到 ゆるキャラまで登場させる政府全面推しの思惑
https://www.fnn.jp/articles/-/24733

*7 タイ、医療・研究目的の大麻使用を認める
https://fr.reuters.com/article/thailand-cannabis-idJPKCN1OP019

*8 東南アジア初の医療用マリフアナ解禁国、タイで専門クリニック開業
https://www.afpbb.com/articles/-/3262414

*9 画像 携帯アプリ「Dr Ganja in TTM」
出所 Department of Thai Traditional and Alternative Medicine, The Ministry of Public Health Thailand
https://www.facebook.com/ttcmh.dtam/photos/pcb.1854021704733783/1854019111400709

*10 More medical cannabis clinics to be opened
https://www.nationthailand.com/news/30380126

*11 Use of medicines mixed with marijuana allowed in select Thai hospitals
https://www.asiaone.com/asia/use-medicines-mixed-marijuana-allowed-select-thai-hospitals

*12 Cabinet approves broadening law on growing medical cannabis
https://www.bangkokpost.com/thailand/general/1962627/cabinet-approves-broadening-law-on-growing-medical-cannabis

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