
トランプ大統領が「CBDは高齢者の健康に効果がある」と発言した動画がSNSで拡散。この影響で大麻関連株が一斉に急騰する異例の事態になりました。今回の発言をきっかけに、今後の大麻関連市場の動向に一段と注目が集まっています。
「トランプ発言」を受けて大麻関連株が急上昇
2025年9月29日、トランプ米大統領が大麻由来成分CBD(カンナビジオール)の高齢者向け医療への効果を強調したことを受けて、株式市場では大麻関連銘柄がいっせいに上昇しました。
この動きは、トランプ大統領が28日に自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿した約3分間の動画での発言をきっかけです。動画の中でトランプ氏はCBDが病気の進行を抑え「高齢者医療に革命をもたらすかもしれない」とコメント。さらに処方薬の代替としての期待も示しました。そしてこの動画よりも前に政権として大麻を「より危険性の低い薬物」に再分類し、刑罰を軽減する方針を検討していることも明らかにしていました。
これらの発言を受けて、大麻関連株は大きく上昇。
カナダの大麻生産・販売会社キャノピー・グロースは一時18%超、北米を中心に事業展開するティルレイ・ブランズ(TLRY)は約42%、クロノス・グループは15%超、オーロラ・カナビスは25%超上昇しました。
さらに大麻関連の上場投資信託(ETF)であるアドバイザーシェアーズ・カンナビスETF(MSOS)も、トランプ大統領の動画投稿を受けて急騰したと報じられています。

どんな背景があったの?
前大統領ジョー・バイデンの政権下では、保健福祉省(HHS)が麻薬取締局(DEA)に対し、大麻を「より低リスクな薬物」に再分類するよう正式に要請されていました。
大麻は米連邦法の規制物質法(CSA)に基づき「スケジュールI薬物」に分類されています。これは医療用途が認められず、乱用の危険性が高いとされる最も厳しい区分です。
一方で州単位ではかなり合法化が進んでおり、すでに40州が医療用大麻を、24州が嗜好(非医療)用大麻を合法化しています。
これまで国として大麻の非犯罪化について明確な立場を示してこなかったトランプ政権ですが、2025年8月、トランプ大統領は「マリファナの再分類を検討しており、数週間以内に決定を下す」と発言していたのです。
トランプ氏は取材に対し、「医療面では良い話を聞いているが、それ以外では悪い話もある。非常に複雑な問題だ」と慎重な姿勢を見せていました。その後、9月下旬に入って「高齢者の健康のためにCBDを利用すべきだ」と発言しているかのような動画が拡散されました。さらに、そこにはこの製品の費用をメディケア(高齢者向けの公的医療保険)でカバーすべきだと主張する内容まで含まれていたのです。
しかし、この推奨動画は本当にトランプ氏の公式見解だったのでしょうか?
事の真相は?トランプ氏が強調した「科学的根拠」の重要性
SNSで拡散した動画では、トランプ氏が「大麻やCBDを無条件に推奨している」と受け取れる表現が目立ち、大きな誤解を生みました。しかし投稿の正確な趣旨はもっと慎重なものでした。
トランプ氏の発言の全容は、「多くの高齢者がCBDや他のカンナビノイド製品のメリットを感じている。もし科学的にその効果が証明されるなら、メディケアを通じて適切な製品へのアクセスを確保すべきだ」というものでした。つまり、単に「CBDが良い」と飛びついたわけではなく、科学的根拠の確認と検証の重要性を強調していたのです。
拡散された多くの動画は、発言のニュアンスを強調するよう意図的に編集されていたものが数多くありました。こうした編集に対しては賛否が分かれていますが、この一連の騒動をきっかけに、高齢者の医療アクセスやCBDの今後のあり方をめぐる議論が一気に活発化したのはまちがいないでしょう。
健康とウェルビーイングへの新たな選択肢

今回のトランプ氏の発言(正確にはSNS「Truth Social」の投稿)が大きな注目を集めた背景には、アメリカの高齢者が抱える健康課題と、大麻由来成分CBD(カンナビジオール)がもつ可能性があります。
高齢者の一般的な悩みとしては、
- 関節炎などの慢性的な痛み
- 睡眠障害
- 身体の不調や喪失体験、社会的役割の低下による不安や気分の落ち込み
などが挙げられます。
これまでの研究や利用者の声から、CBDはこれらの症状に対して、中毒性がなく比較的副作用が少ない形で役立つ可能性が示唆されています。
<CBDが期待される主な効果>
痛みの管理:関節炎などの慢性的な炎症を抑え、痛みの緩和を助ける可能性
睡眠の質向上:リラックス作用を通じて入眠を促し、夜中に起きてしまう現状を改善
精神的な健康:不安やストレスの軽減に役立ち、穏やかな日々をサポート
現在、このような症状に対して処方される薬の中には、依存性や副作用のリスクを伴うものも少なくありません。
そのため、自然由来で安全性が高いとされるCBDは、高齢者にとって既存の治療を補完し、場合によっては代替する新たな選択肢として期待されています。
メディケア適用には科学的根拠が不可欠
トランプ氏の投稿が話題になりましたが、CBD製品が公的医療保険であるメディケアの対象となるためには大きな課題があります。最大のハードルは「効果について科学的な裏付けを取ること」です。
現在、米国食品医薬品局(FDA)が医療用途として承認している大麻由来の成分を含む薬は、難治性てんかんの治療薬などごく限られたものにとどまっています。CBDが単なるサプリメントではなく、医療として広く認められ、保険が使えるようになるためには、しっかりとした科学的な裏付けが必要です。
<CBDが医療として認められるために必要なこと>
大規模な臨床試験
特定の病気や症状に対してCBDがどれだけ効果的か、どのくらいの量が適切か、安全に使えるかを確認するために、厳密なヒト対象の大規模な臨床試験が必要です。
安全性のデータ蓄積
長期間使用した場合の安全性や、ほかの薬との飲み合わせによる影響について、しっかりとしたデータを集めることが求められます。
品質の標準化
製造の基準(GMP)を守り、成分の含有量が安定していることなど、誰が作っても同じ効果が得られるための厳しい品質管理が不可欠です。
トランプ氏が「科学的に証明されていること」の重要性を強調した背景には、アメリカの保守的な医療体制の姿勢があります。CBDを利用する私たちも、SNSのトレンドや感情に流されるのではなく、どの情報がきちんと科学的に裏付けられているかを見極めることが大切です。
日本のCBD市場にも影響?
アメリカでの連邦レベルの決断は、大麻関連の法規制に慎重な日本にも大きな影響を与えます。
現在の日本では、向精神作用を持つTHC(テトラヒドロカンナビノール)を含まないCBD製品のみが合法とされています。
リラックスや睡眠サポート、気分転換を目的にCBDを利用する人は増えていますが、「医療効果」をうたうことは厳しく制限されています。
しかし、もし米国でCBDの医療的有効性が公的に認められ、メディケアの対象となるなど市場が拡大すれば、その影響は日本にも波及する可能性があります。
メディケア対象となった場合、次のような変化が考えられます。
- 研究がもっと盛んになる
アメリカで大規模な臨床データが増えれば、日本でもCBDの安全性や症状への効果を調べる研究が進むと期待されています。 - CBDに対するイメージの変化
権威ある機関や政府がCBDを肯定的に評価すれば、日本の人たちのCBDのイメージは「怪しいもの」から「健康に役立つ成分」に変わる可能性があります。 - 規制緩和のきっかけに
海外のデータや市場の動きは、日本の規制当局にCBDを医療や健康の選択肢としてより柔軟に考えてもらうきっかけになるかもしれません。
まとめ
今回のトランプ氏の発言をめぐる騒動は、単なるSNS上の騒動に過ぎないのかもしれません。
しかしCBDが高齢者という大きな市場や公的医療制度の中で、その効果や役割を本格的に議論すべき段階に入ったことを示しているとも言えます。
政府も私たちも科学的な研究の進展や、各国の規制の動き、高齢者の健康に対するCBDの具体的な役割に注目していく必要があります。大麻由来の成分が人々の健康や暮らしに広く役立つ時代は、もうすぐそこまで来ています。この動きはCBD市場の成長を考えるうえで、とても重要なターニングポイントになるでしょう。
<参考資料>
https://www.theguardian.com/society/2025/sep/29/cannabis-stocks-trump-cbd-medicaid

