
米ミシシッピ大学が、国立衛生研究所により新たな大麻研究拠点として指定され、政府の支援を受けた本格的な研究がスタートしました。
ようやく開かれた突破口
2025年、アメリカにおける大麻(ヘンプ)研究の新たな時代が幕を開けました。ミシシッピ大学が、アメリカ国立衛生研究所(NIH)によって、連邦政府公認の大麻研究センターとして正式に認定されたのです。
アメリカでは長い間、州ごとではタオ魔の解禁がつづていたものの、国全体としての連邦法では規制物質に分類されてきました。これは、乱用の可能性が高く、医療用途が認められていないとされる区分です。そのため大学や医療機関による本格的な研究は制限され、治療薬としての可能性があっても、十分な検証ができないまま放置されてきたのです。
今回、政府による公式な支援が入ったことで、今後は「安全性」や「有効性」といった科学的根拠をしっかりと築くための研究が一気に加速することが期待されています。
ミシシッピ大学の新たな大麻研究センター
ミシシッピ大学は、医療用大麻(ヘンプ)などの研究を進める「大麻・カンナビノイド研究リソースセンター(R3CR)」を新たに開設すると発表しました。このセンターは、国立補完統合衛生センター(NCIH)の助成を受けて設立されます。
R3CRは大学内の「国立天然物研究センター(NCNPR)」に設置され、ウェビナーや研究会議の開催を通じて、大麻の作用や仕組みに関する科学的な根拠を収集します。
さらにNCNPRは、国立衛生研究所(NIH)との協力のもとワシントン州立大学と連携し、米国薬局方(USP)の品質基準づくりにも参加します。
このUSPは1820年に創立した医薬品や食品、サプリメントの品質を保証するための基準を定める国の重要な機関です。
なぜミシシッピ州が大麻研究の中心なのか?
ミシシッピ州は国として大麻(ヘンプ)が禁止されてきたアメリカで唯一、連邦政府に認められた研究用大麻の供給地として、過去何十年にも渡って大麻研究を支えてきました。この大麻は州内の施設から全国の研究者に提供されています。このシステムは規制下で研究を後押しする一方で、供給が限られてしまうなどの課題を抱えています。そこで、研究体制を広げる動きが進んでいます。
その一環として、2022年にはバイデン前大統領が「医療用大麻およびカンナビジオール研究拡大法」に署名しました。この法律により、研究者が医療目的で大麻を扱いやすくなり、質の高い大麻の安定供給も目指されるようになりました。

医療大麻はどのような病気に役立つ?
大麻(ヘンプ)は、古くから薬草として使われてきました。現代でもその薬理作用が注目され、さまざまな病気に対する治療の補助として研究や活用が進められています。
大麻に含まれる生理活性成分「カンナビノイド」(THCやCBDなど)は、私たちの体にある「エンドカンナビノイドシステム(ECS)」に働きかけます。これは、体のバランスを保つための仕組みで、カンナビノイドがそれに作用することで以下のような効果が期待されています。
痛みの緩和(鎮痛)
炎症の抑制(抗炎症)
吐き気の軽減(制吐)
食欲の増進
心身のリラックス、不眠の緩和 など
また、以下のような病気において、医療大麻の有効性が報告されています:
慢性痛
神経障害性の痛み、がんによる痛み、線維筋痛症など、通常の痛み止めでは十分な効果が得られにくい場合に、QOL(生活の質)改善が期待されています。
多発性硬化症(MS)
筋肉のこわばり(痙縮)や痛みの緩和に役立ちます。
がん治療による吐き気・嘔吐
化学療法でよく見られる強い吐き気や嘔吐を抑える効果が認められています。
てんかん
特に小児の難治性てんかん(ドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群など)では、発作の回数が減少したという報告があります。
食欲不振・体重減少
エイズやがんの患者のために、食欲の回復や体重の維持のため使われることがあります。
炎症性腸疾患
クローン病や潰瘍性大腸炎などの症状緩和に効果があるとされています。
医療大麻には多くの期待が寄せられていますが、実際に使う際にはいくつかの大切なポイントがあります。
まず、その効果は人によってさまざまで、「この病気なら必ず効く」とは限りません。また、医療大麻が適用される病気の種類や、そもそも法的に認められているかどうかは、国や地域によって大きく異なります。 そして、めまいや眠気、口の渇き、また精神作用といった副作用が現れる可能性も考慮する必要があります。
だからこそ、医療大麻を安全かつ有効に医療へ取り入れるためには、国が主導してさらなる科学的な研究を進め、確かなデータを積み重ねることが重要です。その上で、明確なルール作りを進めることで、本当に医療大麻を必要とする人たちが安心して利用できる医療環境を整えられるでしょう。
これからどんな研究をするの?
ミシシッピ州立大学では現在、医療大麻やCBD製品の効果と安全性に関する複数の研究プロジェクトが進められる予定です。主な研究テーマは次のとおりです:
各種カンナビノイドの比較研究
CBD、CBN、CBGなど、異なるカンナビノイド成分が体にどのように作用するのかを比較します。
疾患ごとの有効性のリサーチ
がん、神経変性疾患、不安障害など、特定の病気に対してどの成分がどれだけ有効かを検証します。
用量と副作用の関係性
どれくらいの量で効果があり、副作用が出るのはどの程度の使用からなのかを評価します。
長期使用による健康への影響
継続的な使用が体にどのような影響を与えるかを、長期的な視点から調べます。
これらの研究が進み、結果が公表されれば、私たち消費者にとっても、CBDをはじめとするカンナビノイドや医療大麻をより安全に、効果的に使うためのガイドラインとなるはずです。科学的な根拠に基づいた使用法が明らかになることで、日常への取り入れ方にも変化が生まれるでしょう。

日本ではどんな動きがある?
日本における医療大麻の研究は、長らく厳しい法的規制の下にありましたが、近年、大きな転換期を迎えています。
これまでは「大麻取締法」により、大麻草の茎や種子以外の部位を「大麻」と定義し、その栽培・流通・研究が厳しく制限されてきました。
このため、海外で承認されている大麻由来の医薬品――たとえば難治性てんかんの治療薬「エピディオレックス」なども、日本では使用することができませんでした。結果として、日本の患者さんが海外では受けられる治療を利用できないという、いわゆる「ドラッグ・ラグ」が大きな問題となってきました。
最近では、日本でも医療目的での大麻由来製品(CBDなど)の使用を認める方向で法改正が進められています。しかし、研究の進めやすさや法的な枠組みについては、依然として課題が残っています。
たとえば、アメリカのように政府が主導して研究センターを設立するような動きは日本にはなく、多くは民間や個人レベルの取り組みにとどまっているのが現状です。
今後、日本が世界の医療大麻研究や制度整備の流れにどう対応していくのかが、重要な焦点となっています。
まとめ
アメリカで政府公認の大麻研究センターが設立されたことは、まさに「大麻は危険」という長年のイメージを見つめ直す時代が来たことを意味します。これは決して、遠い「海外の話」だけではありません。
大麻(ヘンプ)が持つ可能性は、医療や健康の分野で今、大きな注目を集めています。特にCBD(カンナビジオール)は、日本でもその利用者が増えています。私たちも、これまでの偏見や思い込みにとらわれず、正しい知識を持って、CBDをはじめとするカンナビノイドを自身の健康やウェルネスに賢く役立てていきたいものです。
参考資料
https://olemiss.edu/news/2025/4/new-cannabis-resource-center/index.html