
韓国の研究者チームが、ヘンプに含まれる新たな成分を発見しました。子どものがんに対する抑制効果を持つ可能性があると言われています。
ヘンプから見つかった新成分CBE
2025年、韓国の研究チームがヘンプから「カンナビエルソキサ(CBE)」と呼ばれる新しいカンナビノイド成分を発見しました。
カンナビノイドは、大麻草(ヘンプ)に含まれる化学成分の総称で、これまでに100種類以上が発見されていました。代表的なものには精神作用を持つTHC(テトラヒドロカンナビノール)や、リラックス効果や痛みの緩和が期待されるCBD(カンナビジオール)があります。
新たに見つかったCBEは、広く知られているCBDやTHCとは異なる独自の化学構造を持っています。まだ詳しい働きは解明されていませんが、子どもに多く見られるがん「神経芽腫」に対して抑制効果が見られたという研究結果が報告され、大きな話題となり、医療大麻の可能性をさらに広げる新たな一歩として、大きな期待が寄せられています。
子ども特有の治療に期待の新成分
神経芽腫(Neuroblastoma)は、おもに5歳以下の子どもに発症するがんの一種で、未熟な神経の細胞(神経芽細胞)からできる悪性腫瘍です。進行が早く、再発することも多いため、治療には細心の注意が必要とされています。
これまで使われてきた抗がん剤は、強い副作用があり、成長期の子どもにとっては体への負担が大きいという課題がありました。そこで今、注目されているのが、副作用が少なく、がん細胞だけに働きかけるような新しい治療法です。今回の「カンナビエルソキサ(CBE)」に関する研究が関心を集めているのも、そうした背景があるからなのです。

研究チームのあゆみ
この研究は2025年5月に、学術誌「Pharmaceuticals」に掲載されました。円光大学、韓国食品医薬品安全局、など政府機関と大学を代表する14人の研究チームによってはカンナビエルソキサのほかにも、大麻の花から初めて確認された複数の化合物についても報告しています。
研究チームは、化合物を分離するクロマトグラフィー技術を使用し、それぞれの分子構造の分析や、神経芽腫細胞への毒性を評価するテストも行いました。
その結果、ヘンプの花穂からカンナビエルソキサと既知の6種のカンナビノイド、さらにクロリン系(クロリンという特定の分子構造を持つ化合物のグループ)と呼ばれる新旧あわせて4種の化合物が抽出されました。クロリン系の新成分としては、「132-ヒドロキシフェオホルビドbエチルエステル」や「リグラリアフィチンA」などが初めて大麻から確認されました。
この中で、CBD(カンナビジオール)やCBDA(カンナビジオール酸)、CBDA-ME(カンナビジオール酸メチルエステル)、Δ8-THC(デルタ8テトラヒドロカンナビノール)、CBG(カンナビクロメン)など5種類のカンナビノイドが、神経芽腫に対して抗腫瘍効果を示す可能性があると報告されています。
がんケアに役立つ医療大麻(ヘンプ)
アメリカの国立がん研究所によると、がん治療を受けている患者の約20%から40%が、がんや治療の副作用を和らげるために大麻製品を使っていると推定されています。また2025年2月に発表されたミネソタ州の調査では、医療用マリファナを使っているがん患者が「がんに関係する症状が大きく改善した」と報告しています。
ヘンプに含まれるカンナビノイド成分が、このような効果に関係しています。例えばCBDやTHCといったカンナビノイドは、がんの化学療法の副作用として起こる吐き気を抑えたり、体の痛みを和らげる効果があるとされ、すでに医療大麻として使われています。
さらに一部のがんでは、カンナビノイドががんの成長を抑える効果があると報告されています。最新の研究では、デルタ-9 THC、CBD、カンナビゲロール(CBG)などのカンナビノイドが、腫瘍の成長や転移を止める働きを持ち、「さまざまな仕組みを通じて抗がん剤として期待できる可能性がある」とまとめられています。ただし大麻をがん治療に使うためには、法律の問題や適切な投与量の決め方など、まだ解決すべき課題が多くあります。
カンナビノイド研究の広がり
ヘンプに含まれるカンナビノイドの研究は1960年代ごろから始まり、THCやCBDにとどまらず、現在までに100種類以上のカンナビノイドが発見されています。
2018年に米国で産業用ヘンプの栽培が合法化されたことで研究が一気にしやすくなり、大麻草に対するネガティブイメージも薄れて、病気の治療や健康維持にヘンプの成分を役立てる人も爆発的に増えました。
カンナビノイドはそれぞれが異なる生理作用を持ち、単独で利用するだけでなく組み合わせることで相乗効果(アントラージュ効果)を発揮すると言われています。今回のCBEのように、未解明の成分に光を当てる研究が進めば、大麻という植物の可能性はさらに広がります。
健康成分として広く使われているCBD(カンナビジオール)は、不安や不眠の緩和、炎症の抑制、リラックス効果などが知られています。さらに、例えばTHCと組み合わせることで、THCの効果をより引き出したり、副作用を和らげる働きもあると言われています。
医療大麻は世界各国で法整備が進んでいますが、日本を含め多くの国や地域でまだ議論が続いています。その一方で、CBD製品のようにすでに多くの国で合法化され、社会的な理解も徐々に進んでいる成分もあります。

医療以外でも役立つカンナビノイド
医療用途の研究が進む一方で、CBDはすでにストレスの軽減や快眠、炎症対策など、日常の不調を自分でケアする方法として広く使われ始めています。特に睡眠の質が低下しやすい現代社会において、CBDは体にやさしい自然な選択肢として注目されています。
副作用がほとんど見られず安心して使うことのできる成分ですが、成分分析表(COA)の公開、第三者検査の有無を必ず確認するなど、品質の優れた確かな製品を選ぶようにしましょう。
未来を変える植物の力
ヘンプ成分には、まだまだ知られていないことがたくさんあります。しかし、その一つひとつが、これからの医療や私たちの生活を大きく変える可能性を秘めています。今回発見されたCBEはまさにその希望の象徴と言えるでしょう。
自然の力を科学で解き明かし、それを大切な命を救う手段へとつなげていく―それこそがカンナビノイド研究の大きな役割です。この研究がもたらす恩恵が私たちの日常に届く日も、そう遠くはないかもしれません。
<参考資料>
https://softsecrets.com/en-GB/article/new-cannabinoid-cannabielsoxa-discovered