麻の葉に含まれるカンナビジオール(CBD)に思いがけない効果があるという研究が「ニューサイエンティスト」誌に発表されました。
CBDが蚊を撃退する?
最近、健康食品として人気のCBD(カンナビジオール)に、新しい効果が発見されました。ヘンプに含まれるCBDが、蚊の幼虫を駆除する効果があることがわかったのです。この発見は世界的な科学誌「ニューサイエンティスト」で発表され、多くの科学者や環境保護団体が注目しています。
CBD(カンナビジオール)とは、ヘンプ(学名:カンナビス・サティバ・エル)に含まれる天然の成分で、カンナビノイドの一種です。ヘンプは古代から薬草や食物、繊維の材料として使われていましたが、近年の研究で、ヘンプの持つCBDがリラックス効果やストレスの軽減、炎症や痛みを和らげる効果があることが明らかになりました。このため近年は医療や健康業界で大きく注目され規制緩和も進み、様々な健康食品や化粧品に利用されています。
オハイオ州立大学の研究
蚊は、世界中で最も人を殺していると言われる昆虫です。 蚊に刺されることで痒みや腫れが起こるだけでなく、マラリアやデング熱など、命に関わる病気を媒介し発病リスクが高まります。こうした問題に対処するため、様々な対策が講じられてきました。
よく知られる蚊取り線香、虫除けスプレー、蚊帳などを使用するほか、繁殖地となる水たまりを管理したり、マラリアなどの伝染病に対しては予防接種や治療薬が利用されています。
オハイオ州立大学が行った今回の研究では、CBDが蚊の幼虫を死滅させる効果があることがわかりました。この効果は今使われている化学的な殺虫剤と同じか、それ以上の結果とされ、この発見によって化学薬品を使わず蚊をコントロールし、病気の媒介を防ぐことができるとして大きな注目を集めています。
研究チームは蚊の幼虫にカンナビジオール(CBD)を含むヘンプの抽出物を与えたところ、一般的な殺虫剤に耐性のあるものと耐性のない2種類の黄熱蚊の幼虫を48時間以内に死滅させることを確認しました。ヘンプが害虫に強く、農薬をあまり必要としなくても育つ理由の1つはCBDの力によるものなのかもしれません。
殺虫剤がもたらす弊害
伝染病の媒介となる蚊の中には、従来の殺虫剤に対して強い耐性を持っている種がいます。これは、人類が同じ殺虫剤を大量に使用した結果、突然変異によって耐性を身につけた蚊が生き残り、繁殖しているためだと考えられています。今回の研究で興味深いのは、CBDはこれらの殺虫剤に耐性を持つ蚊にも効果があることです。
蚊の幼虫は通常、水たまりのような静止した水の中で生息し、駆除するためには合成殺虫剤が不可欠です。しかしその過剰使用が耐性を持つ蚊の発生や環境への悪影響を引き起こしていることも指摘されているため、環境保護の面からもメリットがあります。
人体に優しいCBD
CBDはヘンプに含まれる成分ですが、精神を高揚させるTHC(テトラヒドロカンナビノール)とは違って、リラックス効果や痛みを和らげる作用を持っています。また、痙攣や吐き気を抑える働きも持っています。研究が進むにつれCBDは日常の健康管理やメンタルケアに加え、難病患者の治療や抗がん剤の副作用を軽減するために利用される用になりました。
さらにCBDは人体にほとんど副作用がなく、安全性が高いことも特徴です。世界保健機関(WHO)もCBDは経口摂取や吸入において一般的に安全だと評価しています。また依存性や乱用性を持つ可能性はひじょうに低いとされています。
世界のどこでも生産できるが、課題も
ヘンプは昔から世界中で栽培されてきた植物で、丈夫で成長がとても早いことで知られています。このため短期間で収穫ができ、農薬を使わなくても元気に育つため、土壌や環境への負担が少なくなります。ですから、ヘンプを使った殺虫剤が実用化されれば、環境に優しく、比較的安価に作ることができる可能性があります。
しかし天然由来の成分であっても、蚊の幼虫に効果がある殺虫剤を作る際には、ミツバチなどの花粉を運ぶ他の昆虫や生態系全体への影響も考える必要があります。研究チームは、CBDが生態系のバランスに与える影響をしっかりと考えながら蚊のコントロールを行うために、さらなる研究が必要だとしています。
さまざまなメリットを持つヘンプ
ヘンプは医療や健康食品として利用される他にも、繊維や種子を使ってさまざまな製品を作ることができ、環境ガスを多く生み出すプラスチックや化石燃料の代わりとして注目されています。ヘンプから作られる製品は生分解性があり、環境ダメージが少ないのが特徴です。
そして最近注目されているのは優れたCO2削減能力です。成長が非常に早く、3〜4ヶ月で収穫できるだけでなく、光合成を通じて大気中の二酸化炭素(CO2)をたくさん吸収します。そのCO2削減能力は、森林の木々の5倍以上とも言われています。
また、ヘンプの根は深く広がり、土を耕す働きがあります。これによって土壌の質が向上し、土の中に炭素を貯める能力が高まります。このように、ヘンプは長期的なCO2削減にも役立つのです。
まとめ
CBDの殺虫効果に関する研究はまだ始まったばかりです。実際に殺虫剤として使うためには、生態系への影響や安価な生産方法の検討、実際のテストなど、解決しなければならない課題がたくさんあります。環境に優しい方法で蚊をコントロールできるように、今後の研究や開発に期待が寄せられています。
参考資料
https://www.newscientist.com/article/2449912-cbd-shows-promise-as-pesticide-for-mosquitoes
https://news.osu.edu/hemp-shows-high-promise-as-potential-natural-insecticide