アメリカ司法省は2024年5月16日に、大麻をより危険性の低い薬物に分類し直す提案を発表しました。これは過去50年間でアメリカの薬物に関する政策の中で、最も大きな改革の1つなります。
過去50年間で最大の決断
アメリカで歴史的な大きな変化が進行中です。米連邦政府は大麻をより危険性の低い薬物として再分類する計画を発表。ジョー・バイデン大統領は16日、「長年の不公平を正すための重要な対応」とコメントし、X(旧ツイッター)で「大麻に対する失敗した対応が多くの人々の人生を狂わせた」「私はその歴史的な過ちを正すと誓う」と投稿しました。
バイデン氏は上院議員時代に犯罪法案を作成(1994年に成立)しましたが、この法律は黒人が薬物犯罪で不公平に多く投獄されていると批判されていました。2020年の大統領選では、バイデン氏は時代の変化に合わせて考えを変え、大麻の使用を非犯罪化すると公約し、さらに単純所持や少量の使用で刑務所に入れるべきではないとコメントしました。
大麻はアメリカで合法?違法?
現在、連邦レベルでは大麻はヘロインや合成麻薬LSDと同じく「スケジュール1」に分類されています。しかし、アメリカの麻薬取締局(DEA)は、今後は大麻を依存の可能性が低いとされる「スケジュール3」薬物に再分類するといわれています。これにより大麻は「乱用の可能性が低い」薬物の一部として扱われることになります。
「アメリカでは大麻が合法化されている」という話を聞いたことがある人も多いと思いますが、実際にはアメリカという国家全体ではまだ大麻は違法です。しかし州ごとに見ると、38の州で医療目的の大麻が合法化され、24の州では娯楽目的の大麻も合法化されています。アメリカの大麻産業は急速に成長しており、今後さらに合法的な大麻産業は銀行サービスや外部からの投資を受けやすくなり、さらに活性化すると予想されています。最近のニュースだけでも、アメリカの大麻関連企業の株価が15%から67%上昇し、カナダの企業も大きく値上がりしたことが報じられています。
合法化が進んでいる理由は何ですか
大麻合法化の動きには、様々な理由があります。以下の主な理由を5つ見ていきましょう。
- 人種的な不平等を正す
大麻禁止法は、人種的マイノリティに対して不公平な影響を与えているという批判があります。統計によると、黒人は白人に比べて大麻関連で逮捕される確率が4倍以上高いとされています。不当な逮捕をされることで、その人の学業や仕事に長期的な悪影響を及ぼすことも少なくありません。近年、この不平等をなくすべきとする声がますます強くなっています。 - 税収を増やす
合法化された大麻は、課税の対象となります。多くの州では、大麻販売に対する消費税を導入しており、その税収は教育などの公共サービスに充てられています。大麻をいち早く合法化した米コロラド州では、大麻市場から多額の税収を得ており、その一部は学校建設や薬物乱用防止プログラムに活用されています。 - 医療目的での利用
大麻に含まれるカンナビノイドという成分が慢性疼痛、がん、てんかん、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、MS(多発性硬化症)などの症状を緩和し、化学薬品よりも副作用が少ないことがわかっています。このため多くの患者が大麻治療を求めており、大麻合法化を支持しています。 - 自由の尊重
アメリカ社会では、個人の自由を尊重する価値観が根強くあります。大麻の合法化を支持する人々の中には、個人が自分の意思で大麻を使用する権利を主張し、政府による規制を批判する声があります。 - 経済成長と雇用の増加
大麻産業は、急速に成長している市場の一つです。合法化により、新たなビジネスチャンスが生まれ、雇用が生まれることが期待されています。実際、コロラド州では、大麻産業関連で1万人以上の雇用が生まれています。この数字には、栽培、加工、販売、小売、セキュリティ、検査、輸送など、大麻産業の様々な分野の仕事が含まれています。
注意すべきファクターもたくさん
一部の専門家の中には、「スケジュール3」薬物への変更が大麻の利用者を増やし、より危険な薬物使用への入り口になるのではないかと懸念する声もあります。またほかの専門家は、適切な規制と教育を行うことで、このリスクを軽減できるとしています。
2022年に医学ジャーナルの「JAMA Network Open」に掲載された研究では、水パイプを用いた大麻の喫煙は、がんや心臓発作に関連する微小な物質のレベルを上昇させることが示され、2023年に「Pediatrics」に掲載された研究では、エディブルと呼ばれる大麻成分入りのグミやチョコレートを摂取する子どもたちが急増していることも問題視されています。
このようなリスクを含みながらも、米保健福祉省は、大麻が他の1類の薬物よりも害が少ないと発表しています。これは大麻がモルヒネやヘロインなどの薬物に比べて、過剰摂取による死亡リスクが低いことを意味します。また大麻が食欲と睡眠の質を改善したり、不安や痛みの軽減につながると指摘する研究も数多くあり、医療大麻の可能性を重視していることも関係しているでしょう。
まとめ
大麻の合法化は社会に大きな影響を与え、今後のアメリカ社会に大きな変化をもたらす可能性があります。乱用防止対策やブラックマートの規制など、デメリットの部分をどのように減らしていくかが今後の課題になりそうです。
<参考資料>