近年、世界中で注目を集めている医療大麻。日本でも議論が活発化しています。今回は英国のニュースなどを例に、医療大麻サービスの拡大についてご紹介します。
医療大麻ってどんなもの?
大麻草は数千年の昔から、鎮痛剤や麻酔薬、不眠解消の薬などとして世界中で薬草として利用されてきました。20世紀に入ってからは多くの国で禁止され、違法薬物として扱われるようになった大麻ですが、なぜ今、大麻を使った医療が再び注目されているのでしょうか。
近年の科学技術の進歩により、大麻に含まれるカンナビノイドの研究が進み、その薬理作用や安全性についての理解が深まりました。特に、主要なカンナビノイドであるテトラヒドロカンナビノール(THC)やカンナビジオール(CBD)の治療効果に関する研究が大きく進展したのです。
CBDは優れた抗炎症作用や鎮痛作用があり、抗けいれん作用があります。アメリカ食品医薬品局(FDA)は、CBDを含む医薬品「エピディオレックス」をてんかんの治療薬として承認しています。もう1つのTHCは鎮痛作用や抗吐作用を持ち、がん患者の化学療法に伴う吐き気や痛みの軽減に役立ちます。またTHCには食欲を刺激する作用もあり、エイズ患者やその他の慢性疾患による食欲不振の改善にも効果的です。
ほかにもCBDやTHCには関節などの痛みの軽減、食欲増進、不安や不眠の緩和といった効果もあり、健康サプリメントとしての利用も増えています。ただし、THCは高い薬理効果があるものの、精神の高揚や妄想、不安感などの精神作用を引き起こすという副作用があるため、日本をはじめ、まだ多くの国で規制されています。
どこで治療を受けることができるの?
2024年現在、大麻の医療利用を認めている国や地域は、欧米を中心に増加しています。北米、ヨーロッパだけでなく、南アフリカやアジアにも広がりを見せており、日本でも規制緩和の動きが見られます。
これらの国々では、医療用大麻の栽培、加工、販売、所持を厳格に規制しながら、医療目的での使用を許可しています。
大麻医療で治療を受けられる病気の種類は、国や地域によって異なりますが、一般的には以下のようなものが対象となります。
慢性的な痛み(がん性疼痛、神経症性疼痛、腰痛など)
がん
てんかん
アルツハイマー病
多発性硬化症(MS)
悪心・嘔吐(化学療法に伴うものなど)
食欲不振(がん・エイズ患者など)
睡眠障害
オンライン診療でメンタルヘルス治療もサポート
メンタルヘルスにおいても医療大麻は注目を浴びています。
パンデミックの影響による失業や社会的孤立などの影響、健康不安などにより、ストレスやうつ状態、不安障害を抱える人々が増えていることも無縁ではないでしょう。
この課題に対応するため、オンライン診療で医療大麻を処方するクリニック「トリート・イット(Treat It)」では、英国で専門のメンタルクリニックの提供を開始しました。メンタルヘルスの問題を抱える人にとって、従来の診察には時間と手間がかかりました。
そこで注目を集めているのが、「トリート・イット」のようなオンライン診療サービスです。このサービスは、患者が自宅から気軽に医師に相談し、医療大麻の処方を受けられるという画期的なものです。トリート・イットでは、専門の精神科医がオンラインで診察し、うつ病や不安障害、PTSDなどの症状に応じて医療大麻を処方します。また大麻だけに頼るのではなくカウンセリングやセラピーも提供して、患者を総合的にサポートしています。メンタル治療のための通院に負担を感じていた人にとって、オンライン診療は大きな助けとなるでしょう。
※2018年に医療大麻の使用が合法化された英国では、医師の診察を受ければ、医療大麻を利用することができます。
また、海外からの旅行者向けに医療大麻を処方する国際処方サービスが始まり、話題を呼んでいます。これは、現地に行く前にオンラインで医師の診察を受け、渡航前に大麻治療に必要な処方箋を入手できるサービスです。これによって旅行先でかかる面倒な時間とコストを節約することができます。
ほかにも、カナダでは医療用・嗜好用大麻が両方とも合法となっており、欧州よりも進んだ様々なサービスが展開されています。
例えば、患者はスマートフォンやタブレット端末を使って、医師とのオンライン相談、処方、配送まで全てアプリ上で完結できるサービスを受けることができます。時間や場所の制約がなく、自宅から気軽に利用できるため、多忙な方、高齢で通院が難しい人々にとって非常にありがたいものです。
まとめ
医療大麻についての状況が最近めまぐるしく変わっています。患者が簡単に使えて便利なサービスが増えるのは素晴らしいことですが、それと同時に新しい問題も生まれました。たとえば、私たちが日々目にする医療大麻に関する情報が、すべて信頼できるわけではありません。患者は、医師や政府など信頼できるソースから、自分に合った治療法かどうかを正しく見極める必要があります。
また手軽に入手できるようになったことで、医療大麻が不正に使われる可能性もあります。未成年者や子どもが医療大麻を手に入れないように気をつけることも大事です。
医療大麻は、いろんな病気の治療に役立つ古くて新しい医療です。正しい情報を広めて、適切に使うようにすることがますます大切になっています。
<参考資料>