アメリカでは、大麻の合法化が州ごとに進んでおり、嗜好用の合法化を支持する人が全体の70%と言われています。本記事では、アメリカでの大麻規制と合法化の様子や、合法化の論点について紹介します。
急速に広がる大麻合法化の波
2018年、産業用大麻(インダストリアル・ヘンプ)の栽培が解禁されたことをきっかけに、アメリカでは大麻の合法化が急激に進んでいます。医療大麻が1996年にカリフォルニア州初めて合法化されましたが、その後の合法化運動により2012年の投票でワシントン州とコロラド州にて娯楽用大麻が初めて解禁されたことをきっかけに、合法化の波は急速に広がりました。
医療品として大麻が合法化されている州では大麻取扱店(ディスペンサリーと呼ばれる大麻薬局)が、食料品や薬局、めがね店などと同等に生活に必要な「エッセンシャル・ビジネス」に指定され、パンデミックのロックダウン中にも営業を続けていました。
アメリカの民間調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査によると、2024年現在、アメリカ人の74%が医療もしくは娯楽用の大麻が合法の州に暮らしています。
国民の支持率はとても高い
この動きを支えているのは、大麻医療のメリットを求める人々です。ギャラップ社の調査によると、アメリカ人の70%が大麻合法化を支持。多くの人が、副作用の強い化学薬品の代わりとなる大麻治療を求めています。痛みの緩和、不安やストレスの軽減が一般的な目的ですが、医療大麻には長期間続く痛みや神経痛、関節の炎症などの痛みを和らげるほかにも以下のような使い方があります。
- 気持ちの安定: 不安や心的外傷・トラウマによって引き起こされるストレス状態、うつ病などの精神的な問題を緩和する。
- 食欲の促進: がん治療やHIV/AIDSなどで食欲がなくなった時に、食欲を取り戻すために使われる。
- 吐き気の緩和: がんの化学療法などの治療で起こる吐き気や嘔吐といっ副作用を抑え、患者の体力低下を食い止める。
- けいれんの制御: てんかんやMS(多発性硬化症)などで起こる発作やけいれん、体のこわばりを抑える。
「娯楽目的」も市民権を得ている
日本では、大麻を娯楽目的で使うことは現在厳しく禁止されています。また、大麻に含まれる陶酔作用を引き起こす成分THC(テトラヒドロカンナビノール)も規制の対象です。しかしアメリカでは州によってはお酒を楽しむのと同じように、一定のルールを守った上で陶酔作用やリラックスを目的にした大麻使用もできる州が増えています。その結果、大麻を専門としたバーやレストラン、観光業も増えています。喫煙を好まない人のためには、大麻成分をケーキやグミ、チョコレートに配合したエディブルやサプリメントも販売されています。
このように大麻ブーム真っ盛りのアメリカですが、大麻草(ヘンプ)はかつて繊維や紙の原料として栽培が奨励されてきた大切な作物でした。1937年に入り麻薬として扱われ栽培が禁止され・使用者が逮捕されるようになったことで状況は一転します。当時は禁酒法が解除されたばかりで、大麻の取り締まりには役人の雇用を確保するためだった、大麻喫煙の習慣がある南米からの移民に対する偏見も関係していたという話もあります。
現在、大麻合法化についての議論が盛んです。合法化の最大のメリットは違法市場から合法市場への移行です。大麻が合法的に取引されることで税収が増える見込みがあります。また大麻使用による逮捕件数が減り、逮捕によって失業したり学業を断念する人が減るでしょう。さらに大麻を違法に取引する犯罪組織の資金源を断つことができます。法律によって大麻の品質が管理されることで、消費者が不明な成分を摂取するリスクも減ります。
しかし米国では1937年以来、連邦レベルでは大麻が違法とされたままです。合法化はそれぞれの州が独自に州法を改正する形で現在進められています。このため、州ごとによってバラバラの規制や税制が存在し、混乱不公平な結果が起こる可能性があります。例えばある州で大麻が合法化され隣接する州では依然として違法の場合、大麻製品を所持し州を超えて移動しただけで同じ国なのに違法行為を犯してしまうといったケースがあるのです。
合法化による社会への影響
大麻合法化は、社会に以下のような影響を与えています。
経済効果:
税収が増加する。
新しい雇用が生まれる。
「大麻」を巡る観光業が活性化する。
犯罪率への影響:
⦁ 暴力犯罪が減少する。
⦁ 逮捕者数が減少する。
刑務所の人口が減少する。
健康への影響:
大麻帯び運転により、交通事故が増加する可能性がある。
呼吸器疾患のリスクが増加する可能性。
精神疾患のリスクが増加する可能性。
これまでの薬では不可能だった治療が実現する
副作用の少ない鎮痛剤として活用できる可能性
若者の脳や心身への影響が懸念されている
アメリカの退役軍人団体は司法省に対し、「退役軍人は軍務中に受けた傷やストレスによって帰国後も苦しめることがある。大麻を含めた治療法の幅を広げたい」と合法化を働きかけています。
大統領選と合法化のゆくえ
大麻の合法化にはポジテイブな点もありますが、若者や子供への影響や乱用、誤用のリスク、交通事故の可能性、そして学業や仕事への影響が心配されています。特に、成長期の若者が大麻を乱用すると、脳の発達に悪影響を及ぼす可能性があるとされています。
米大統領ジョー・バイデン氏は、2024年大統領選に向けて、大麻所持で有罪判決を受けた人々に対して恩赦を提供するなど、国レベルでの合法化を検討しています。さらに米国保健福祉省(HHS)は、麻薬取締局(DEA)に対し、大麻を危険度の高い薬物であるスケジュールIから、乱用の可能性はあるが医学的な利用も認められているスケジュールIIIに移行するよう勧告しています。
今後、アメリカでの大麻合法化はさらに拡大していくでしょう。連邦レベルでの合法化が実現すれば、アメリカ社会、そして世界中に大きな発給効果をもたらすことが予測されます。
参考資料