大麻にはTHCやCBDなど広く知られた有効成分の他にも、100種類以上のカンナビノイドと呼ばれる薬理成分が存在しています。これらの成分の中には従来の治療法ではうまくいかない病気を治療する可能性を持つ成分も。含有量が少ないため、これまであまり研究されてこなかった成分でしたが、技術の進歩によって研究がより容易になり、未知の力を秘めた「マイナーカンナビノイド(希少カンナビノイド)」としてスポットを浴びています。本記事では、その中から4つのマイナーカンナビノイドに焦点を当て、その作用や使い方、最新の情報について紹介します。
カンナビノイドの研究は60年代に始まった
大麻に含まれる成分が人体にさまざまな影響を及ぼすことは古代から知られていましたが、化学や医学の世界で研究がはじまったのは1960年代です。イスラエルのワイツマン研究所に所属していた化学者ラファエル・メコーラム(Raphael Mechoulam)博士が、大麻植物から主要なカンナビノイドであるTHC(テトラヒドロカンナビノール)を最初に分離・同定したことから大麻研究の道が開かれました。
メコーラム博士は大麻成分の1つである生理活性物質カンナビノイドTHC(テトラヒドロカンナビノール)の構造の特定と化学的合成を行い、THCが主要な精神活性物質であることが明らかにしました。カンナビノイド研究の基盤を築いた人物として、「カンナビノイド研究の父」と呼ばれています。
メコーラム博士の研究チームは、その後もカンナビノイド研究に取り組み、カンナビジオール(CBD)やカンナビゲロール(CBG)など、さまざまなカンナビノイドの構造を特定しました。近年では、大麻草の成長初期に現れる化合物CBDA(カンナビジオール酸)を安定化させ医療に役立てるプロセスの開発を発表。ガンの化学療法による吐き気の抑制、炎症性腸疾患(IBD)や乾癬などの治療に役立つ可能性があるとされており、副作用の大きい薬品ステロイドやオピオイドの代わりとなる天然由来成分として業界の注目を集めました。
「マイナー」カンナビノイドって?
大麻草には数百種類の成分が含まれており、カンナビノイドだけでも100種類以上が確認されています。
これらの中には大麻の陶酔作用をもたらす成分THCやサプリメントとして人気の健康成分CBDのほかにも、含まれる量は少ないものの健康に役立つ様々なカンナビノイドが見つかっています。これらは量が少ないか、安定度がひくいことからマイナーカンナビノイド、あるいはレアカンナビノイドと呼ばれ、メジャーなカンナビノイドであるCBDやTHCと比較すると知名度はまだまだ低いものの、医療大麻の世界で注目されています。
優れた薬理効果がありますが、精神に影響を与えるため注意が必要なTHCとは異なり、これらのカンナビノイドは心理活性効果を持ちません。以下に4つの代表的なマイナーカンナビノイドをあげ、その作用について紹介していきましょう。
●カンナビゲロール(CBG)
炎症、痛み、吐き気の緩和に役立つと言われています。イタリアで行われたマウス実験では、CBGが炎症性腸疾患の炎症を軽減する可能性があることがわかりました。これはがん細胞や腫瘍の増殖速度を低下させることにもつながると言われています。
●カンナビクロメン(CBC)
マイナーカンナビノイドの中では比較的含有量の高いカンナビノイドの1つとされ、抗炎症や鎮痛作用のほかにも、抗がん作用や抗腫瘍作用、抗うつ、神経保護効果も持ち合わせている可能性があります。
●カンナビノール(CBN)
一般には最近知られるようになったカンナビノイドですが、60年代にすでに大麻から単離され研究されているカンナビノイドの1つです。睡眠を促進する効果や鎮静作用のほか、抗炎症や抗菌作用も持つとされています。マウス実験ではよりCBDとCBNの持つ睡眠効果が比較され、CBNの方がより効果的であることがわかりました。
●テトラヒドロカンナビバリン(THCV)
抗炎症や抗けいれん作用、骨の成長促進の作用があるほか、食欲抑制と血糖値のコントロールを行うため、ダイエットに役立つカンナビノイドとして注目されています。精神作用をもたらすTHCと構造は似ていますが、精神に悪影響を及ぼすことはありません。
新しいウェルエス製品も登場。
市場リサーチ会社Grand View Researchによると、2020年のマイナーカンナビノイドのアメリカ市場規模は49億ドルであり、カンナビノイドベースの医薬品や関連商品の需要はさらに増加しています。
カナダとアメリカでは大麻の合法化が進んでいるため、マイナーカンナビノイドを含む製品もすでに数多くみられます。
例えばカナダのクロノス・グループはCBCとTHCの比率が3:1のマンゴー味のFEELZ™デイ トリップ グミを発売しました。ほかにもCBG配合の「チル・ブリス」やCBN配合の「ディープ・ドリームズ」といった、マイナーカンナビノイドの特性を活かしたグミや電子タバコリキッドも展開しています。
コロラド州の人気ブランドであるWana BrandsもCBG/CBD/THC比率が1:1:1のグミをリリースしました。これは昨年11月にCBD、CBN、CBG、THCに加えて30種類のテルペンを配合した「ステイ・アスリープ」グミに続く新商品です。
※テルペンは精油成分の1つで、大麻草にも様々な種類が含まれています。
これらのブランドは、バランスの取れた使用感を生み出すことに加えて「アントラージュ効果」と呼ばれる相乗効果を生み出すよう様々な成分を配合しています。
このアントラージュ効果とは、大麻の成分を単独で摂取するよりも、複数の成分を組み合わせることで個々の効果を相乗的に高め、総合的な効果を得ることができるという考え方です。
「単一のビタミンを1種類のサプリで摂取するよりも、様々な成分が組み合わさった食品や、バランスの取れた食生活から摂取する方がより効果的」というのと近い考え方と言えるでしょう。
マイナーカンナビノイドを大量生産できる日も近い
本稿では注目マイナーカンナビノイドとその作用についてご紹介しました。
絶対量が少ないため商業化は難しいとされてきたマイナーカンナビノイドですが、精密発酵(プレシジョン・ファーメンテーション)と呼ばれる、特定の成分が発酵プロセスを用いて生成する技術が進化している現在、これらのカンナビノイドの量産が実用化されるのも時間の問題とされています。
この技術は代替ミートや代替ミルクの世界ですでに実用化されており、牛を使わないミルクやチーズ、肉などが生まれて商品化も始まっています。例えばカリフォルニアのスタートアップ「Perfect Day」では乳タンパク質であるホエイとカゼインプロテインの遺伝子コードを微生物に与え、牛と同じ乳タンパクを作り出します。これを水や植物性油脂、ビタミンやミネラルなどと発酵させることで、牛乳と同じ特性を持つ乳牛フリーというミルクを作り出し、アイスクリームなどが生産されています。
もうすぐ、私たちが簡単にマイナーカンナビノイドの恩恵を受けることができる時代がやってくるかもしれません。
<参考資料>