全米に先駆けて嗜好用大麻を合法化したコロラド州では、大麻から得た税収を公共施設に還元する試みが行われています。
「まるでアウトドア!」がコンセプト
米国コロラド州の郊外都市オーロラ市に合法大麻の売上から生まれた税金を投じて市民スポーツセンターがオープンしました。
「サウスイースト・レクリエーションセンター・アンド・フィールドハウス(Southeast Recreation Center and Fieldhouse)」と呼ばれるこのスポーツセンターは、約2,137.16平方メートルの体育館に屋外スペース、ジム、陸上競技用のグランド、フィットネスエリア、大規模なコミュニティールーム、温水プールやウォータースライダー、スパ施設などを備えた充実の内容。大きく取られた窓からはコロラド州の山々の壮大な景色を楽しむことができます。
スキーリゾートとしても知られるコロラドは、標高の高い地域ではとくに豪雪地帯となります。オーロラ市の標高は約1,665メートル。市街地でも冬の降雪量はかなり多く、市民が屋内アクティビティを楽しめるスペースが必要とされていました。
センターのデザインはコロラド州の自然にインスピレーションを受け、峡谷の形を描き室内バスケットボールコートなどにもたっぷりと自然光が入るデザインです。エントランスエリアには設計事務所プロジェクト・ワン・スタジオの創始者アダム・ブエンテによるパブリックアート作品「フロレッセンス」が展示されています。
大麻税を公共事業に活かす
オーロラ市議会ではパンデミックの起きた2020年に嗜好用大麻への売上税を 7.75% から 8.75%に引き上げることを決定し、この税金を若者の犯罪防止や教育に投じる活動に取り組んできました。
例えば地元学生むけに、約5000万円相当を奨学金として支給しています。審査はなく、コロラドのプレブロ郡すべての応募者に対して1000ドル(約13万円)を支給し、学生はそのお金を地元のコミュニティ・カレッジもしくはコロラド州立大学プエブロ校の学費の支払いにあてることができるようにしたのです。学費全てをカバーすることはできないものの、この奨学金によって学生ローンの額を大幅に減らすことができ、市民の教育水準を上げて街を豊かにするというアイデアです。
税制もルールも州によってさまざま
コロラド州は2012年、全米に先駆けて娯楽用大麻を合法化しました。合法化支持者たちは、州が管理した上で大麻市場を活性化させれば、その税収を地方政府の財源にすることができると主張し続けてきました。これは違法大麻を売買するブラックマーケットを駆逐し、市民を守り犯罪組織の資金源を断つことにもつながります。
また大麻が合法化されると大麻所持、栽培、使用による前科者をむやみに増やすことがなくなります。大麻のせいで差別を受けたり職を失ってしまう人を減らし、貧困や犯罪の負のスパイラルを防ぐことも目的です。
発表によると、大麻税は 2021年だけで4 億 2,300 万ドルという記録的な額にのぼりました。またこれまでに大麻税収入のうち約 5 億ドルが、州の公立学校の教育費や改修工事などに投入されています。ほかにも農業支援や環境保護費、娯楽施設の建設、公共安全費など多岐に使われています。
合法化によってアメリカの多くの州がコロラドやワシントン州をモデルした大麻税を導入しました。 これらの税収は州によって医療や国民の意識向上キャンペーン、研究費、学校教育、健康保険、農業支援、地方政府サービス、社会福祉などの支出にあてられています。
一般的に大麻の税率は製品価格にもとづいて計算されます。たとえばコロラド州やカリフォルニア州では大麻製品に20%の税金がかかります。大麻に含まれる精神活性成分THCの含有量によって段階的に税率が導入されている州もあります。州の売上税に加えて各自治体からの追加課税が適用されるケースもあり、エリアによって独自のルールがあります。2020年に合法化に踏み切ったマサチューセッツ州では、大麻はすでにアルコールよりも多くの税収を集めていることが分かっています。
大麻税が37%と他州に比べて高いワシントン州では、これらの税収を教育、健康、および社会支援プログラムなどに役立てています。
なぜ今、合法化が進んでいるの?
大麻合法化のメリットは税収だけではありません。従来の医療では治療しにくい病気に効果を発揮したり、炎症を抑えて体の痛みを緩和する効果を利用し関節炎や筋肉痛のケアにも使われています。
このような効果は大麻草に含まれるカンナビノイドという化学物質の作用によるもので、大麻に含まれるカンナビノイドは、人間の体内にあるカンナビノイド受容体に結合してさまざまな効果を発揮します。
大麻に含まれるカンナビノイドは100種類以上と豊富です。これらはTHC(テトラヒドロカンナビノール)、CBD(カンナビジオール )、CBG(カンナビゲロール)など、それぞれ独自の効果を持っています。各物質の量は大麻草の品種、植物の年齢、収穫時期、 乾燥させた方法などによって変化しますが、副作用がほぼなくヒーリング効果の高いCBDは、近年とくに注目を集めています。CBDはリラックスや炎症を抑える効果が高いのが特徴です。このためCBDオイルなどのサプリメントや医薬品のほかにも、歯磨き粉やシャンプー、食品や飲料など日常的な製品にも配合されるようになってきました。
精神を高揚させる作用があり危険であると、長らく麻薬扱いされてきた大麻ですが、精神作用を引き起こすのはカンナビノイドの中でもほんの数種類にすぎないことも研究によって明らかになりました。
精神作用はアルコールなどによっても引き起こされるため、大麻ばかりを危険視するのはおかしいのではないか、アルコールのように規制や管理をした上で合法化し、健康効果をもっと有効利用すべきではないかという機運が高まっています。
禁酒法時代(1920〜1933年)のアメリカでは、飲酒を禁止することでかえってアンダーグラウンドなマーケットが生まれ、密造酒や密売人の出現、そして酒類による過剰摂取や健康被害の増加など、さまざまな社会問題が生じました。また警察の取り締まりが強化されたことで汚職や犯罪の横行も問題になりました。アメリカではむやみに何かを禁止することで、かえって悪影響が生まれるという実例も経験済みなのです。
米国では大麻が禁止されたことで、大麻喫煙の風習を持つ移民に対する差別問題が起こったり、前科者を大量生産したことでその人たちの職を奪い、貧困や犯罪を大量生産してしまったという歴史があります。
大麻合法化は経済効果だけでなく、犯罪件数を減らして刑務所費用を軽減し、医療利用の拡大など社会問題の解決にもつながると考えられています。
いろんな課題も残されている
いいことばかりに思える大麻合法化ですが、まだまだ過渡期の現在では様々な議論や行われています。
- 健康上の問題:大麻使用は健康メリットもありますが、喫煙やベイピング行為が気管支や肺にダメージを与える、長期的には呼吸器疾患のリスクが高まる可能性があります。ただし大麻を加熱しないエディブル(食べるタイプ)などの摂取方法を選ぶことで、これらのリスクを低減することができるとされています。
- 若者への影響:大人向けに合法化されたことで、大麻成分グミなどの菓子類を幼い子どもが食べ病院に運ばれるといったケースが報告されています。またティーンエイジャーの脳はまだ発達途中であり、大麻使用による記憶力や認知能力の低下などが起こるのではないかという懸念の声もあります。
- 法律上の問題:大麻は現在のところ連邦法で違法とされているため、州間や国境を越えた大麻の輸送は、他州や国の法律に違反する可能性があり手続きが複雑化しています。
- 社会的問題:アルコールなどと同じように、大麻の使用は仕事能力や運転能力を低下させる可能性があります。
アメリカ全体の大麻解禁への道は、タバコやアルコールの扱いと同様にメリットとリスクを理解し、税収の活用など最適な規制を模索しながら調整していく過程が必要です。コロラド州は大麻合法化時代の先駆者であり、今回のスポーツセンター設立の例のように合法化が社会にどのような影響を与えるかを知るための実験室として、今後も興味深いお手本となっていくのではないでしょうか。
<参考資料>
https://hightimes.com/news/weed-funded-rec-center-opens-in-aurora-colorado/