嗜好用大麻がまだ違法の英国で「ご自宅に大麻をお届けします」の広告で英国を驚かせた「ディスペンサルー」。あっと驚くゲリラ戦略で一躍有名になった彼らはどんな存在?そして現在どうしているのでしょうか。
まさかのハイジャック広告キャンペーン
本サイトでも以前に触れたロンドンの「ディスペンサルー(Dispenseroo )」事件。人気のフードデリバリー会社にそっくりの広告ポスターでロンドン地下鉄をハイジャックし、英国ではまだ規制薬物の大麻を「ご自宅に配達します」と宣伝したことで一躍有名になりました。
違法物品の売買は匿名性の高いダークウェブ(通常の方法ではアクセスできないウェブ)で取引されているケースがほとんどですが、ディスペンサルーが型破りだったのは誰でもアクセスできるオープンなウェブ上でショップを運営し、ゲリラ広告キャンペーンや口コミを通じてユーザーを獲得していることです。昨年の地下鉄ハイジャック広告で一気に有名になり10倍に成長、収益は月100 万ポンド(約1億6,000万円)を超えていると報じられています。
「商品」は大麻の持つ独特のにおいを隠すために真空密封された袋に入れられ、ありふれた従来の郵便サービスを使って配達されます。道端などで麻薬ディーラーから買うよりも高価ですが、品質が保証されカスタマーサービスも評価が高く、安全であるというユーザーの声が上がっています。消費者レビューサイトTrustpilot では5つ星中 4.7 つ星の高評価が付けられています。
なぜ会社を立ち上げた?
仮名で「S」と呼ばれているディスペンサルーの創設者は、WEB会議ツールのzoomなどを使い覆面姿で様々なメディアのインタビューに答えています。
「S」はディスペンサルーを以前にドラッグの販売をしたことはなく、英国の時代遅れな大麻法に不満を感じて新しいサービスを作っただけだとコメント。また医薬品としても優れている大麻と心身を蝕むハードドラッグの間には大きな違いがあり、病気治療のためにもっと大麻が使われるべきだという独自のポリシーについても語っています。
英国では2018 年11 月の法律改正により、医療用大麻の処方が可能になりましたが、普及は非常に遅く、国民医療サービスNHSで大麻治療を受けることができるのはほんの一部に限られているのが現状です。このため大麻治療の合法化に希望を見出していた難病患者たちは、闇マーケットで取引される大麻に頼らざるを得ないという状況が続き、多くの活動家から不満の声が上がっています。
人気デリバリー会社は困り顔
ブランド名のディスペンサルー(Dispenseroo)とは「ディスペンサリー」と「デリバルー」を組み合わせた造語です。その名前の元になったのは、英国で大人気のフードデリバリー会社「デリバルー」。日本で人気のウーバーイーツと同じようにアプリをクリックするだけで近隣のレストランから食べたいものが配達されるサービスは、あっという間に人気となり、街のレストランが全クローズしたパンデミック初期のロックダウン期間には爆発的な人気となりました。
デリバルーでは「麻薬ディーラーが我々のブランド名を利用したことは商標権侵害にあたる」と、ディペンサルーに対しドメイン名の譲渡を求める申し立てを提出しました。しかし「S」は「もともとカンガルーをもじった会社名の商標権を主張するのはばかげている、そして私たちのサービスで救われた人たちがたくさんいる」と主張し、この訴えを不服としています。またデリバルーが運営されていない国でも複数のドメイン名を持っていると語っています。
ディスペンサルーは2022年8月に設立したばかりのスタートアップ。デリバルーの名前とブランドカラーをまねた何百もの雑草の広告をロンドンの地下鉄に無許可で掲載し、インスタグラムのインフルエンサーたちにブランドを宣伝するよう呼びかけました。そして10 月、ロンドン北西部のウェンブリーにあるショッピング モールにある、大型デジタル看板でウェブサイトを公開しました。
警察はどうしているの?
英国は違法であっても個人の大麻使用者について比較的寛容ですが、大麻を生産または供給する者に対して厳格な法律があり、最大 14 年の懲役または無制限の罰金、またはその両方が課せられる可能性があります。
しかし英国メディアの報道を追っていると、不思議なほど警察はディスペンサルーを摘発する様子がみられず、聞こえてくるのはデリバルーとのもめ事ばかりです。
英国では大麻はまだ規制対象ですが、公共の場で問題を起こしたり、室内や飲食店での喫煙でない限り大麻を吸っていてもとがめられることはあまりありません。これは個人よりも犯罪組織に繋がっている可能性のある麻薬ディーラーを取りしまった方がよいという警察の方針があるためです。またロンドンでは大麻やその他のクラスB指定の薬物使用を非合法化するパイロット計画が進行中であると報じられています。
(2004年から2009年まで大麻はより危険度が低いとされるクラスC薬物に指定されていました。)
より個人よりも犯罪組織の摘発に予算を割くこと重視している英国の警察ですから、他の犯罪とは縁のなさそうなディスペンサルーに対しては目をつぶっているのか、それとも何か別の事情があるのか。今後の展開が気になるところです。
「S」は英国メディアに対し、2023年には大麻法の改正を求めて新たな広告キャンペーンをを打つと宣言しています。いったいどんな驚きを見せてくれるのか、今後も目が離せません。
<参考資料>
https://www.independent.co.uk/tech/dispenseroo-buy-weed-online-uk-legal-scam-b2254845.html
https://grmdaily.com/deliveroo-suing-drug-dealer-copyright-dispenseroo/