嗜好用大麻が解禁され大麻ビジネスが盛んなNY。最近行われた調査ではブラックマーケットで取引されている大麻の4割が健康を脅かす危険のある物質に汚染されていることがわかりました。
大麻ビジネス・ブームの陰にある危険
2021年から成人の嗜好品としての大麻使用が合法化され、大麻ブームが起こっている米ニューヨーク州。リンゴやイチゴ狩りのように郊外の大麻農園に自分用大麻を摘みにいくツアーが誕生し、マンハッタンのような都心部では、出前アプリでオーダーするとあっという間に自転車やスクーター便で大麻が配達されるサービスもあります。
合法的に取引されている大麻のほとんどは、品質や保存状況の基準ラインをクリアしたものばかりです。しかしブームに便乗し路上販売する違法の大麻ディーラー、違法なポップアップ店では品質や衛生管理が徹底しておらず、健康を脅かす雑菌が付着しているケースが多いことがわかりました。
ニューヨーク医療大麻産業協会では違法取引されている大麻の約40% から大腸菌、サルモネラ菌、または鉛、ニッケル、殺虫剤の成分など8つの汚染物質を検出。検査のための大麻製品は約20の違法サイトから購入されましたが、これらの大麻はニューヨーク州規制に合格しないものばかりだったといいます。
大麻から見つかったこれらの物質はいずれも体調不良や合併症を引き起こすものばかりです。大腸菌のようなバクテリアを大麻と一緒に吸い込んでしまうことは、肺にこれらを直接取り込んでしまう場合があり、身体にダメージを与える危険性があります。
成分はまちまち、子どもがうっかり食べる危険性も
今回の成分調査ではFacebook や Google マップなど、多くのユーザーが利用しているオンライン検索をベースに店舗検索を行っています。
違法製品の中には表示されているTHC(精神作用を引き起こす大麻成分)の量を大きく下回る製品もあり、逆に2 倍も上回る製品も見つかりました。またサイトでは50% 以上が身分証明書の提示を必要としなかったため、未成年者が嘘の情報を入力し購入することもできます。商品の中には人気朝食シリアルのキャラクターなど著作権で保護された食品ブランドの画像が使用されており、子どもが好むような菓子類に大麻成分をブレンドしたものも多く、何も知らない子どもがうっかり摂取してしまう危険度が高くなります。
合法製品より安く未成年でも買えるとなれば、リスクを無視して買ってしまう人が多いのが現実です。現在、規制当局と法執行機関は認可を受けた販売者にサポートを提供し、20 億ドル規模の違法マーケットを抑えこもうとしています。
ここまで違法業者が増えてしまったのは行政の対応遅れも原因です。大麻を合法化に踏み切ったものの、安全を重んじるばかり合法ライセンスの付与に数か月もかかってしまい「合法になったけれど、合法的に購入することはできない」という状態が長いこと続いたため、違法店舗が急増してしまったのです。
このようなグレーマーケットで大麻が簡単かつ容易に入手できるようになってしまうと、合法マーケットが機能しなくなり、ユーザーの健康や安全を危険にさらし大麻ビジネスが栄える前に市民の信頼を失ってしまう可能性があります。
負のループを終わらせたいアメリカ
こういった州ごとの煩雑なプロセスを踏むよりも、いっそ全国的に米連邦法を変えることを望む声もたくさん上がっています。巨額の費用を浪費して大麻を規制する代わりに、大麻をアルコールのように合法化した上でルールと教育を徹底し、何十億ドルもの税収を生み出し人々への不当の扱いをなくそうという考え方です。
「人々への不当な扱い」というのは主に米国における人種差別を意味しています。大麻所持で投獄されるのは統計的に人種的マイノリティが多く、彼らが刑務所に送られることで前科者扱いされ、職や教育の機会が奪われてしまうためです。
当選前から大麻の非犯罪化を公約に掲げてきたジョー・バイデン米大統領は「いかなる人も、大麻使用や所持だけで刑務所に入るべきではない」という演説を行っており、2022年10月には大麻所持で有罪判決を受けた人全員に恩赦を与えると発表しました。
他の犯罪と関連づけられて語られることが多い大麻所持ですが、実際には社会の負のループが貧困を生んでおり、本人やその家族が生き延びるため犯罪に手を染めざるを得ない人が多いのも現実です。アメリカでは試行錯誤しがらも現在、60年以上続いたこのシステムを打ち破ろうとする中、大麻ビジネスを安全に軌道に乗せることは行政の重要課題となります。
まとめ
大麻合法化の目的は、大麻の持つ優れた成分を人々が安心して楽しめるようにし、税収を増やして人々の生活に役立てること。そして合法化によってブラックマーケットを駆逐し、犯罪グループの資金源を断ち治安を維持することです。
合法でありながらブラックマーケットも栄えさせてしまうという状況を止めなければ大麻合法化の意味はありません。かつてアルコール飲料業界を完全に一掃した禁酒法は、闇マーケットを活性化させ犯罪組織を巨大化させて多くの混乱を産みました。
アメリカは過去の経験を生かし、大麻合法化の道のりを乗り切ることはできるのでしょうか。
<参考資料>