大麻合法化が進行しているアメリカで、食材として大麻を用いた新グルメが登場しています。大麻の味わいとは?米国西海岸のトレンドについて紹介します。
米西海岸の大麻キュイジーン
大麻の合法化が進んでいる米国では、約40州で嗜好用や医療使用大など何らかの形で大麻が合法なっている州に住んでいると言われています。合法化は危険だと反対する保守派・慎重派は少数派となっており、医療大麻に関しては9割が支持派であるという統計すらあります。
大麻ショップや大麻を楽しむラウンジなど新しい施設もたくさん登場し、さまざまな製品が誕生しています。富裕層が集まり、新鮮で質の高い素材に恵まれたカリフォルニアのグルメシーンには大麻を食材として使った「大麻キュイジーン/カンナビス ・キュジーン」が登場し注目を集めています。
大麻は古代から世界中で栽培され、その繊維で衣服や日用品を作り、その種(ヘンプシード)は栄養価の高い穀物として重宝されました。そして種子を絞った油は食用や照明用の灯油として利用されてきた歴史があります。
しかし新トレンドの大麻キュイジーンはこれまでのようにヘンプシードを使った大麻料理とは一線を画しています。大麻キュイジーンとヘンプシード料理の大きな違いは「大麻草の香りや味、大麻の持つ精神作用を食と組み合わせて、グルメと大麻体験を同時に楽しむ」というものです。
フードペアリング理論を応用
大麻キュイジーンは異なる食材を組み合わせてお互いの味を引き立てたり、新しい風味を生み出す「フードペアリング理論」をベースにしています。フードペアリングとは食材の香りや味などの要素をタイプ別に分析し、味わいや香りの相性がよい食材同士の組み合わせることを指します。
私たちは甘味、酸味、塩味、苦味、辛味などの味覚に加え、香りや食感の異なる食べ物や飲み物を組み合わせることによって、1つの食材では味わえない味覚の相乗効果を感じ楽しむことができます。私たちが普段食べている料理も経験的にこういった味覚の法則をベースに作られています。例えば魚に醤油やわさび、牡蠣にレモン、チョコレートと苺などがその一例です。 シーフードに白ワインを合わせる、コーヒーとチョコレートを楽しむといった食材&ドリンクの組み合わせもフードペアリングの一種といえるでしょう。
ふだん馴染みがある組み合わせのほかにも、唐辛子とグレープフルーツ、ニンニクとアイスクリームといった意外な味覚のマッチングが発見され、日々新しいメニューが生まれています。
大麻キュイジーンではこの考えに基づき、大麻独自の味や香りと食材の組み合わせに加えて、大麻成分のもたらす薬理効果をプラスしてその体験を楽しむという、ユニークで最先端をいく料理の1つなのです。
大麻の風味や香りの成分とは
大麻の持つ風味や香りとは一体どんなものでしょうか。大麻草(学名:カンナビス ・サティ・エル)の中には、カンナビノイドやテルペン など数100種類の生理活性成分が含まれています。その香りや風味は青臭いものや苦味を感じるものから、レモンやハーブの香りのように香り高く揮発性の高いものまでさまざま。
テルペンは植物に含まれる植物の精油成分に含まれる成分で、果物、野菜、ハーブ、スパイスなどいろいろな植物に含まれています。植物や森林の持つ独特の香りは様々なテルペンの組み合わせによって生まれます。虫や細菌から身を守るためのバリアとして機能しているテルペンはですが、その成分は人体にも影響を与え、気分がスッキリする・リラックスするといった働きをもたらします。アロマセラピーや森林浴のもたらすヒーリング効果はテルペンによる影響が大きいのです。
また大麻成分であるカンナビノイドの中には薬理効果があるだけでなく、気分を高揚させたり食欲を増進させ、味覚や聴覚を敏感にする効果を持つテトラヒドロカンナビノール(THC)が含まれています。大麻キュイジーンではこれらの成分やフードペアリングで選んだ食材たちをお互いに引き立てることで新しい食体験を生み出すことができると言います。大麻にはさまざまな品種があるため、香りや精神作用の違いによっても食体験も変わるのです。
新世代の大麻スターシェフとは
カリフォルニアでは新世代の大麻キュイジーンを生み出すシェフがどんどん登場しています。
いずれも単に料理に大麻をブレンドするのではなく、大麻のタイプや香りを分析し、ぴったりの料調理法や食材を組み合わせるスキルに長けたシェフばかり。
米国初の合法大麻レストランで ある「オリジナル・カンナビス・カフェ」の共同所有者でユーチューバーとしても人気のシェフ、アンドレア・ドラマーは、麻薬対策カウンセラーから大麻シェフに転身したという人物で米国有数の大麻シェフと言われています。
ハイエンドなケータリング会社「オピュレント・シェフ」のマイケル・マガリネスも有名です。ミシュラン星レストランでの経験を経て生み出される大麻キュイジーンはグルメを唸らせる本格派。新しいトレンドに敏感な人々の間で高い評価を受けています。
タイミングと食材の組み合わせが体験を左右する
これらの料理、味はもちろんのこと、食べるタイミングも重要なファクターです。大麻を食べてからTHCの効果が現れてくるのは約45分後からと言われています。このため 9 ~10つあるコース料理のうち、最初の3つのコースに大麻がブレンドされることが多く、全コースを通して大麻成分THCがもたらす効果を体験し、食後もその余韻が楽しめるようにデザインされています。
大麻キュイジーンでTHCのもたらす「ハイ」になることは、大麻料理で得られる体験のひとつにすぎません。植物の種類が違えば含まれるカンナビノイドやテルペンの構成も異なり、風味や合わせる食材もそれに合わせて変わります。ある大麻はアスパラと相性がいいけれど、別の品種では肉やキノコなどと相性が良いという場合もあり、ここがシェフの腕の見せ所になります。
大麻の加工の仕方はさまざまで、食材やゲストの意向に合わせて選んだ大麻の花穂を加熱して成分を抽出したり、乾燥した大麻を粉砕してからさまざまなオイルで抽出した成分をピューレやソースにブレンドしていきます。
気になる体への影響は?
大麻の成分はナマの状態で取り入れるか、喫煙や調理で高熱にさらしたものを取り入れるかで感じる効果や身体への影響が異なります。また、大麻を食べて健康リスクはないのかと気になる人もいるかもしれません。
娯楽用大麻が合法となっている州では大麻料理のプロが細心の注意を払ってメニューを作り上げているため、ゲストが大麻料理を食べることを知っており、同意した上で食べている限り大きなトラブルはありません。これは大麻成分の働きをよく知り、どれくらいブレンドすればベストの体験を得られるかをシェフが熟知しており分量やタイミングを計算しているからです。
またTHCは加熱することで11-ヒドロキシ-THCに変化し、体へのダメージが大きくなることがわかっています。このため肝臓で分解されやすいよう、大麻の調理温度と時間を調節してレシピが組まれています。料理やデザートにワインやブランデーなどの酒類を使うと味が引き立つのと同じように大麻はあくまでも引き立て役であり、甚大なダメージを引き起こすことはありません。
グルメ界から偏見を変えていく
米バイデン大統領は2022年10月6日、大麻で有罪判決を受けた人々に恩赦を与えた上で、大麻を危険薬物として分類している現行法の見直しを検討すると発表しました。現在は州ごとでの合法化にすぎませんが、連邦政府が大麻について見直す時期がやってきたようです。合法化により「薬物使用が増える」「犯罪が増加する」という声も根強くありますが、すでに合法化された州のデータを見ると合法化前と後ではあまりデータに変化はなく、数値は横ばい状態であることがわかっています。
米国における大麻規制には健康や安全からだけでなく、人種差別や階級差別といった根深い問題を深く絡み合っています。グルメの世界から大麻のイメージは変得ていくことで、ネガティブなイメージが少しずつ覆りつつあります。
米国の手羽先チェーン、ウィングストップは2022年、大麻を記念日として知られる4月20日に合わせ、THCを含まない大麻を使った期間限定フレーバー「Glazed & Blazed」チキンを発売して話題になっています。人気シェフがプロデユースした大麻グルメが気軽に食べられる日が来るのもそう遠い未来の話ではないのかもしれません。
<参考資料>