化学繊維が登場するまで軍需品素材として長らく重宝されてきたヘンプ繊維。現在、アメリカでは陸軍所属スナイパーの制服にヘンプを採用することが検討されています。
大麻グッズは「合法でも御法度」なアメリカ軍
大麻合法化の進む米国で、健康サプリや美容グッズとして人気のCBD(カンナビジオール)製品。ヘンプ=産業用大麻から抽出される健康やリラックスに効果的な成分CBD配合のオイルや電子タバコリキッド、ドリンク・食品などが広く普及しています。
しかしそんな米国でも軍に所属するとたとえ連邦法で合法となっているCBDでも、大麻関連製品を使用することは禁止されているのだとか。
これは国防総省が定められたルールで、大麻喫煙や精神作用を引き起こす大麻成分 THCの摂取はもちろんのこと、スーパーや薬局で手に入る安全なCBDドリンクやグミなども御法度ということになります。
ドラッグだけでなくこのような市販品の使用と所持が発覚すると軍でのキャリアと給与に響きます。例えばマサチューセッツ州の空軍基地では「たとえペット用のCBDシャンプーであっても、ヘンプ関連製品を所持していれば懲戒処分を受ける可能性がある」とパイロットに勧告しているほどです。
これは軍の薬物検査プログラムの完全性を守るため。商品に記載された成分表示が本当に正しく、THC含有量などをユーザーが正確に把握できる手段がないというのが理由です。
軍ではありませんがNASA(アメリカ航空宇宙局)も、CBD 製品には許可されるレベル以上のTHC が含まれている可能性があり薬物検査で陽性となった場合、職を失う可能性があるとスタッフに警告しています。
大麻製品が全面禁止となっているのは、チーム統制にまつわる苦労も関係しているのかもしれません。米国では長い間、兵士の飲酒をやめさせるよう努めてきましたが、なかなか実現が難し炒め、勤務中以外でトラブルを起こさない・巻き込まれない限りにおいては、特定の期間において飲酒を許可するというスタンスに落ち着いているようです。
スナイパーがヘンプ製ユニフォームを着用する日が来るかも
そんな状況の中、2022年夏に米軍スナイパー兵のユニフォームやロープの代替素材に麻を導入するという案が検討中というニュースが報じられました。
麻には様々な種類がありますが、採用候補に上がっている種類はヘンプ(大麻)とジュート(黄麻)です。大麻使用に厳しい米軍がなぜ今になって、採用を検討しているのでしょうか。
理由の1つはコスト面です。下院歳出委員会は大麻作物がプラスチックに代わる費用対効果の高い代替品としての可能性があると発表しています。また持続可能性のある素材であることも重要です。これは米国エネルギー省 (DOE) が低コストで安全な住宅建材として3Dプリントのヘンプコンクリート住宅やヘンプ製レンガの開発支援に助成金を費やしていることからも伺えます。
2つ目として、中国への対策があります。中国産のプラスチックや化学繊維への依存を減らし別の国から輸入したり国内生産が可能な麻を使用で自給率を上げたいという思惑があるようです。
そして3つ目は品質です。麻は軽い上に丈夫で、天然素材のため肌に優しいという特徴があります。また吸湿性と速乾性が高く、ナチュラルな抗菌効果がありカビの発生を抑え、衣類を無臭に保ちます。紫外線の 95% 以上を遮断できたり、断熱性もあるのも特長です。
軽く丈夫でコスパが良い。麻繊維は様々なスナイパーの迷彩服の素材に適しているようです。
ヘンプのいろんな利点
16世紀の英国では、海軍のロープや帆の材料として軍事に使う大麻を農地の一部で栽培することを農民の義務としていました。米国でも大麻が禁止される1930年代までは生活や軍事の大目に必要な素材として大麻が生産されており、10ドル紙幣がヘンプ紙に印刷されていた時代もあり、紙幣の裏面には農家がヘンプを耕している様子が描かれています。
その後、栽培禁止の時期を経て2018 年の農業法案の改正によって連邦政府によって大麻栽培は再び合法化されました。農作物として栽培できるようになったこと、そして技術や研究の進歩によりCBDオイルなどの健康・医薬品や繊維利用、ヘンプ製コンクリートやプラスチック解いた産業用途への関心が高まっています。
ヘンプ繊維は繊維を衣服に利用するだけでなく、バイオ燃料や代替プラスチックの原料になります。また種子は栄養価が高いうえ血圧を下げたり、心臓病のリスクを抑えてくれます。またタンパク質が豊富なため植物性プロテインパウダーの原料などにも利用されます。
そして同じく繊維利用されることの多い麻の1つジュート(黄麻)は育てやすく耐久性や通気性が高いのが特長です。このためロープに加工されたり、コーヒー豆が入った大きな麻袋、エコバッグなどさまざまな製品に使用されます。またカーペットや家具の裏地としてもよく使用されています。
いずれも古代から育てられていた作物ですが、丈夫で成長が早いという特性があり、栽培過程で大気中の二酸化炭素を吸収する率が高いため、環境負荷の少ない素材として脚光を浴びています。
まとめ
米海軍大学ではヘンプ成分入りのエナジードリンクなど、市場に出回る新しいヘンプ製品についての教育を行い、うっかり食べたり飲んだりしたヘンプ製品が原因で薬物検査に引っかからないようにと警告しています。
軍の規律を守り、効率的な軍事行動を遂行するための組織ならではの対策ですが、石油への依存を少しでも減らして環境ダメージを抑えたり、自給率を高めていくために代替素材の利用は避けて通れない道です。PTSD(心的外傷後ストレス障害)悩む退役軍人の治療にも大麻成分を低レベル処方することが有効というデータも発表され、注目を集めています。
軍隊や産業界などアメリカが国をかけて麻の恩恵に注目しているのも、今後の時代の流れを示唆しているように思われます。
<参考資料>
https://www.marijuanamoment.net/u-s-army-wants-to-make-sniper-uniforms-out-of-hemp/
https://www.marijuanamoment.net/dont-bring-cbd-pet-shampoo-onto-military-bases-u-s-air-force-warns/