科学の進歩によって大麻の有用性が再発見され、多くの国で健康のための大麻への関心がとても高まっています。
今回は大麻にまつわるネガティブイメージを取り払い、カルチャー面から人々の認識を変えていくカンナビス映画祭についてご紹介します。
ネガティブイメージは本当に大麻のせい?
日本ではまだ語ることすらタブー視される大麻。しかし海外では大麻の持つ成分の研究が進み、ビジネスチャンスとして注目され様々な製品が生まれグリーンラッシュ(大麻特需)という言葉も生まれています。
大麻はもともと衣服やロープなどの材料や医薬品として古くから人類に親しまれてきた作物で、最近では木材やプラスチックにかわるサステナブルな素材としても注目を浴びています。しかし非合法薬物として扱われた時期も長く、どんな植物なのか理解されないまま危険なイメージを持たれることもあります。
麻科の植物には精神を高揚させる成分が含まれている品種もあるため、扱いには他の植物と同様に知識と注意が必要になります。しかし大麻の性質や違法となった事情をよく知らないまま、先入観や思い込みだけで大麻や大麻ブームをバッシングする風潮もみられます。これは大麻そのものが悪いというよりも、禁止薬物となり闇マーケットで扱われた歴史、そして麻薬撲滅キャンペーンの中で恐怖を与えるマーケティングが行われがちなため、必要以上にネガティブなイメージを作ってしまったせいもあるのかもしれません。
<補足>
日本では大麻取締法によって、大麻の所持・譲渡・譲受・栽培などが原則禁止されています。
所持・譲渡・譲受>単純:5年以下の懲役 (営利:7年以下の懲役+200万円以下の罰金)
栽培・輸出入>単純:7年以下の懲役 (営利:10年以下の懲役+300万円以下の罰金)
都道府県知事の免許を受けた大麻取扱者のみが大麻の所持、栽培、譲受、譲渡等を認められており、大麻取扱者以外の者がこれらの行為を行った場合は処罰されます。(政府広報オンラインより)
映画の力を通して認識を変える
社会の多様性=ダイバーシティを重視する流れから、人種差別撤廃を訴えるイベントや性的指向の多様性LGBTQをテーマとした映画祭が世界各地で開催されるようになっています。
これには
- 映画のストーリーを借りて認知を広める
- 偏見・思い込みを取り払う
- 仲間と出会う
- トピックについて専門家や参加者とオープンに語る場を作る
といった目的があります。
イベントにすることでメディアや人々の関心を集められるほか、議論を活発にして不当な扱いがあればそれを改善していくといったムーブメントにもつながります。
大麻映画祭も、フィルムメーカーと大麻の専門家、訪れた観客が大麻の歴史やそれを取り巻く状況や今後の動きについて自由に話し合うための国際的プラットフォームを作るのが目的です。
完全合法化に踏み切ったカナダや州ごとに大麻合法化が進むアメリカでは、毎年大麻映画祭や大麻製品の見本市が開催されています。
映画史の中の大麻
アメリカのカンナビス雑誌『ハイタイムズ』によれば、映画に大麻が登場したのは1936年のこと。この時代のアメリカでは大麻は非合法であり危険薬物として捉えられていました。『リーファー・マッドネス(Reefer Madness)』というこのモノクロ映画では、大麻に手を出した若者が犯罪に手を染め狂気に陥っていくという内容で、大麻の危険性について教えようとするプロパガンダの側面が強くありました。第二次大戦後、アメリカが最も豊かさを享受していた50年代に入ってもこの傾向は続き、メディアにおいて大麻は常に悪の象徴でした。
この流れを大きく変えたのが、ベトナム戦争まっただ中のアメリカで公開された『イージーライダー(Easy Rider)』(1969年)です。この映画では麻薬でひと儲けした二人のアウトローがハーレーダビッドソンにまたがり、アメリカ南部に向かう道中を描くロードムービーです。
ドラッグやアルコール乱用など様々な薬物使用を描いた最初の映画の1つですが、2人は自由奔放な生き方を受け入れることができない人々から行く先々で冷たい仕打ちを浴び、最後は彼らを恐れる「正しくまっとうな市民」に殺されるというエンディングを迎えます。
この映画で大麻は初めて自由のシンボルとして描かれました。反戦運動や人種差別反対を訴える公民権運動、ヒッピーカルチャーの絶頂期だったアメリカでこの映画は大きな話題となり主人公たちの奔放な生き方に心酔する若者が続出し、カウンターカルチャーを描いたアメリカン・ニューシネマの象徴として語り継がれることになりました。
「イージーライダー」以降
これまでの社会秩序が揺らぎつつあった70年代以降、大麻喫煙カルチャーは歓迎されないまでも悪の象徴からライフスタイルの1つとして認識されるようになり、映画においてもその位置付けは大きく変わります。現在の洋画に大麻喫煙者が登場することはごく当たり前のことであり(註:大人が見る映画に限られる)、違法であったとしても大麻を吸っていただけで登場人物が殺される、裁かれるといったシーンが登場することはほぼないのではないでしょうか。
そして90年代に入ると、大麻が登場する映画のテーマは多様性を見せ始めます。しかしまだ大麻喫煙する主人公はほとんどが白人男性。大麻の扱いだけでなくジェンダーや人種への考え方も今とはずいぶん違うことがわかります。
主人公が女性の大麻映画が登場するのは、ルームメイトが作った大麻入りケーキを食べてしまった女性の一日を描いたコメディ『Smiley Face』(2007年)ごろから。娯楽であれ医療用であれ、大麻の使用者は様々であることを、ようやくステレオタイプに陥らず表現できるようになったのです。
その後、米国で大麻合法化が始まった2010年代から、大麻へのライトの当て方はさらに変化します。大麻を薬として扱ったものや、人類に恵みを与えてくれる作物としてこれまでの偏見を取り払おうとするドキュメンタリー系、コメディやホラー映画、大麻吸引の効果を体験し変性意識を体験するスピリチュアルな映画も登場しました。
幼い子どもが医療大麻治療を受けるドキュメンタリー『Weed the People- 大麻が救う命の物語 -』(2018年)も、これまではタブー視されがちでなかなか扱われなかったテーマです。
日本においてもがんと戦い老後の夢を実現するために大麻治療に踏み切った元シェフの山本正光氏と、彼の主治医、弁護士、支援者たちのドラマをつづるドキュメンタリー『麻てらす番外編・やまさん余命半年の挑戦』(2020年・パイロット版公開)という作品があります。
この作品は「生きるための努力をしてはいけないのか」という社会が抱える矛盾点を描いた作品。監督の吉岡 敏朗氏は、他にも『つ・む・ぐ ~織人は風の道をゆく~』(2013年)、日本の伝統的な大麻と精神文化を「より姫」と呼ばれる紡ぐ女性を通して語る『麻てらす よりひめ 岩戸開き物語』(2017年、ロンドン インディペンデント映画賞受賞作)など、麻にまつわる意欲的な映画作品を発表しています。
SNSでショートフィルム公開
↑ロンドン・カンナビス・フィルムフェスティバルのロゴマーク(同ウェブサイトより借用)
医療用大麻のみ合法化されている英国では、もっとオープンに大麻について語る場を作ることを目的に、2018年に「ロンドン・カンナビス・フィルムフェスティバル」がスタートしました。
ロンドンの若者カルチャー地区ハックニーのRich Mixシネマで上映会が行われ、トークイベントや大麻アートを展示するギャラリー、キャンペーン団体やヘンプビジネスの集まる展示会も併設されました。
パンデミックに襲われた2020年には映画祭はオンライン開催となり、2日間にわたって映画をストリーミング上映し、ソーシャルメディアを通してパネルディスカッションが配信され、2021年にはクラウドファンディングを行い、英国で大麻や大麻由来製品の普及活動をおこなう活動家やユニークなショップなどを取材する短編ドキュメンタリーを制作し、SNSや動画視聴サービスを通して短編シリーズを発信しています。
最近では女性向けのコスメやサプリといった大麻ウェルネスにも大きな注目が集まっており、女性起業家を対象とした講演や交流会なども開催しています。
映像でものの見方が変わる
ビジュアルの持つ力は大きいもの。特に映像は情報量が大きく感情にも訴えるため広報ツールとしても効果的です。映画祭やソーシャルメディアを通してヘンプカルチャーがより多くの人に知られることが、正しい大麻理解を進めるための追い風となるはずです。
<参考資料>
okemag.co.uk/london-cannabis-film-festival-2019/
https://www.thelcff.co.uk/schedule
麻てらす
https://asaterasu2.com/
https://www.instagram.com/p/CNAUuqanf3o/
ハイタイムズ
リーファー・マッドネス