世界的に規制緩和・合法化が進んでいる大麻ですが、精神作用を引き起こす成分など、その組成については見た目で判断できないものです。合法化が進む国や地域では、嗜好用や医薬用大麻の区別、そして未成年者の利用についてどのように対応しているのでしょうか。
産業用ヘンプの抱えるジレンマ
医療や産業界でヘンプの利用が現在盛んになっています。しかしもとが同じ植物であるため、産業利用しても良い合法的の麻と、非合法のマリファナや大麻を区別することは難しいものです。2つの最も大きな違いは向精神作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビノール)と呼ばれる成分の含有量。
産業用と嗜好用大麻では育て方が違うため畑の様子で判断できることもありますが、見た目も匂いも同じため、製品として出荷された後では、警察犬も法執行官もこの2つを正確に見分けられず苦労しているのです。
例えば大麻を喫煙していたり、カフェで大麻成分入りドリンクを飲んでいている人を見かけて、周りがそれを見て「合法な大麻か違法な大麻か」をその場で正確に見極めることは不可能です。
このように見分けがつきにくいことで医療用に合法的に大麻を所持していた人が通報されたり、反対に医療用と偽って精神作用成分の強い大麻を販売・使用したり、違法製品が不正に流通してしまう自体も発生します。成分や品質が一定でない商品が普及してしまうと、医療利用が難しくなり、したがって合法化の道が閉ざされてしまう可能性もあります。
また麻薬探知犬として訓練された犬は、麻の匂い全般に反応するようトレーニングを受けているため、まだトレーニングを受けていない犬を違法大麻専門に再訓練する必要も出てきました。
密造事故を防ぐには
米国では大麻文化がメインストリームへと移行する中で、ブタンハッシュオイル(BHO)と呼ばれる濃縮大麻の密造が増えており、製造の際に溶剤として使われるブタンガスの爆発事故が増えていることが問題視されています。米国では、違法マリファナ栽培事業を摘発する際に、このブタンハッシュオイル生産設備が一緒に見つかるケースも非常に多いといわれます。
ハッシュオイルはマリファナと比較し濃度が非常に高く、麻の持つカンナビノイドの一つTHC(デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール)の含有量も非常に高くなります。精神を高揚させる作用だけでなく、痛み止めや炎症緩和、吐き気の抑制効果があるTHCですが、嗜好目的だけでなく、有効に使用すれば大麻医療で慢性疼痛やがんなどの病状を治療する人々により大きな症状緩和をもたらす可能性もあります。しかし強力な効果の反面、副作用も大きくなる傾向があり、めまいや記憶・認知障害などを引き起こすこともあり、専門家の管理下で摂取することが理想的です。
大麻産業が盛んになるにつれ、便乗して違法ビジネスを試みる人も増えるのは自然の成り行きと言えます。しかし認可を受けていない場所で製造が行われ流時、その施設の多くは管理の行き届いていない自家製の施設であり、品質が安定しなかったり、適切な換気と安全対策がないため事故の危険性が高くなってしまうのです。
米国の公衆安全当局者は、ハッシュオイル密造施設の摘発だけでなく、ブタンガス販売を規制することで爆発事故が減少する可能性があると指摘しています。これは米国で通称「クリスタル・メス」と呼ばれる麻薬メタンフェタミンの製造が蔓延した際に、製造に使われる化学物質の販売規制したことが、薬物の自家生産の抑制に一役買ったためと言われています。
ちなみに、ハッシュオイルは基本的にマリファナと同じ規制が適用されます。米国の場合、マリファナが合法である州ではハッシュオイルは合法になり、医療用マリファナが合法の州では、医療目的のハッシュオイルも使用が合法になります。
違法だけど「容認」のオランダ
「オランダでは大麻は合法」と考える人が多いのですが、実際にはマリファナの生産・所持・使用は違法となっています。ただし、違法だけど罰せられないというカテゴリーに入っており、個人での一定量以下のソフトドラッグ使用や生産が「容認」されている、自己責任ベースであるというのが現状です。
これは完全な追放は不可能であり、禁止することでかえって闇マーケットが力を持ってしまうしまうという考えから、一定の管理下においてコントロールするという政策が取られているためで、違法でありながら許容されているという半合法のような状態が成り立っています。またコーヒーショップと呼ばれるマリファナ店もあり、法的機関に容認され営業を続けています。
また農業技術世界ナンバーワンと言われるオランダでは大麻の品種改良も盛んで、遺伝子操作などによって様々な品種が生まれ一大産業となっています。
サプリメント・医療・繊維産業用の大麻生産については、嗜好用の大麻に多く含まれる精神高揚作用のある成分が非常に低い品種だけが許可されています。
合法化を進めるアメリカ
米国ではオランダとは方針が少し違い、嗜好用を含めた大麻の合法化が現在急スピードで進んでいます。これはグリーンラッシュと呼ばれる大麻産業のトレンドにビジネスチャンスを見出していることに加え、雇用を拡大したり小規模農家に機会を提供する役目も兼ね備えています。バイオ技術が進んだことで、建材や医療、動物ケアから栄養補助食品や産業用途に至るまで石油燃料にかわる持続可能で有益な素材として麻の利用価値が高まっていることも一因です。
基本的には嗜好品・医薬品の規制についてはまだまだグレーなところもありますが、州ごとに合法化して税収を得る動きが見られます。医療目的以外で21歳以下の未成年が大麻製品を使用したり、大麻摂取の後の運転は法律で禁じられています。
大麻先進国カナダの場合
カナダは、大麻の使用が国単位で認められているという世界的にはまだ珍しい国です。イギリスの会社GWファーマシューティカルズによって開発された、大麻カンナビノイド系がん疼痛治療剤「サティベックス」が初めて認可されたのもカナダが最初でした。THC濃度0.3%未満の品種を産業用ヘンプと定義して98年と早い時期から商業栽培を合法化したり、2018年には娯楽用の大麻も合法化したりと、現在の大麻カルチャー&ビジネスの先端を走っています。食用やペット用として種子や油のTHC濃度を10PPM(0.001%)以下になるよう洗浄することを義務付けたことで、カナダ製ヘンプ商品の流通が米国でも可能となり、全米そして世界的なヘンプ製品ブームの火付け役となりました。
医学利用にも期待が高まるイギリス
イギリスもオランダと同じく大麻には比較的寛容な姿勢をとっており、売買を行ったり他者に迷惑をかけるなどトラブルなどをおこなわない限り「違法だが処罰されることはあまりない」という状況です。オランダの「コーヒーショップ」のような店舗はないのですが、合法成分であるCBD商品のみを扱う店舗は多くー、スーパーでもCBDのドリンクなどを扱っています。
市場に出回っている大麻由来の製品はノベルフードと呼ばれる新規食品申請が必要とされ、また、THC含有量がほぼなくEU承認の原産地からのものであっても麻の花穂(ヘンプフラワー)の販売は禁止されています。未成年者の大麻医療や大麻製品の利用は、深刻な小児てんかんなどの難病治療に用いられる以外は、使用は禁じられています。またイギリスでは転換やがん治療向けの大麻成分の医療利用研究が盛んに行われています。
まとめ
大麻ビジネスが盛んな国では法律で禁止されている商品も何かしらのルートで入手できることが多くなります。このため健康や青少年の教育に深刻な影響を及ぼすという懸念は現在も拭い切れないのが現状です。
白黒でなかなか割り切れない面もありますが、アルコールやタバコがそうであるように、一進一退はありつつ、未成年者の使用規制や運転の禁止、ライセンス発行などで合法化を進め、税収を増やし研究や教育活動に生かしていくのが今後の流れになっていくのではないでしょうか。
補足:歴史的に、産業用の麻は衣類、紙、建設に使用する繊維原料として栽培されてきました。最近では、その安全性と麻のもつ薬理成分への理解が深まったこともあり、産業用大麻は食品、栄養補助食品の生産、また薬理成分CBD(カンナビジオール)を抽出するためにも栽培されています。
<参考資料>
https://smokymountainnews.com/archives/item/27942-legislature-to-ban-smokable-hemp-in-n-c